仲直りのしるしは、海王類のハム




賑やかな食堂を後にして、甲板に出た。昼間の戦いの跡はすっかり片付けられていて。

視界に広がるのはローさんの髪の毛みたいな濃藍色の空と、そこに輝く零れ落ちそうなほどの星たち。



「…うわ…きれー…」



初めて見る船上からの夜空は、邪魔なネオンやバカでかいビルに遮られることなく、吸い込まれそうなほどに綺麗だった。


その景色に目を奪われながら数歩進むと、そこにはぼんやりと白く丸いシルエット。



「ベポ…?」



恐る恐る声を掛けてみると、ピクリと揺れる身体。

大きな身体を器用に丸めて体育座りしているベポの斜め後ろに立ち、言葉を続けた。



「隣、いいかな?あのっ、ご飯持って来たの!一緒に、食べよ…?」



…返事はない、けどまぁそんなの予想の範囲内だ。気にせず隣に座ると、ベポとの間にごちそうが盛られたお皿を置く。


辺りには美味しそうな匂いが漂い、微動だにしなかったベポが視線だけをチラリと皿に向けた。



「倒れた私を運んでくれたの、ベポなんだってね。ありがとう!」


「………別に…」



ぽつりと小さく呟かれた声に、少し嬉しくなる。



「あ、やっと喋ってくれた〜」


「…っ…!な…なんで…」


「ん?」


「なんで…おれを助けたのさ」


「え。なんでって言われても…撃たれそうなのが見えたから、かなぁ?」



そう言うと、今までつま先に目線を落としていたベポがバッ!と頭を上げてこちらを凝視してきた。



「っ!…ば、バッカじゃないの!?お前を船に乗せるの反対してたおれのことなんか、放っとけばいいだろ!」


「…うーん、でも反対されて当然だと思うし…」



だってどう考えたって空から降ってきた人間なんて怪しすぎるもん!と声に出して笑えば、居心地悪そうに抱えた膝をもぞもぞ動かすベポ。



「それに…あんな風に反対したのも、ローさんが大切だからでしょ?」


「……」


「ローさんってさ、見た目はちょっと恐いけど…懐がでっかくて仲間想いの、ステキな人だよね!」


「……うん」



そうだ、強くて優しい大好きなキャプテンは…おれの自慢なんだ。

こんなおれに居場所とたくさんの仲間を与えてくれた、親代わりとも言える大切な人。




「私、右も左も分からない状態でこっちの世界に来たからさ。こんな不審者をクルーにしてくれたローさんにはいくら感謝しても足りないんだ!」



そう言ってニッコリ笑いながらベポの顔を覗き込めば、ハッとしたように真ん丸な瞳をこちらに向ける。



「……え…」



こいつ…ナマエも、おれと同じ気持ちなの?

キャプテンのこと、傷付けたりしないの?…おれたちも…仲間?




「…今日はごめん。あと、助けてくれてありがと…」


「!」



そして――照れ臭そうに目を逸らしながらも、ベポの口から小さく零れ落ちた言葉。



「…えへへっ、じゃあ…仲直り、ね?」



そう言って差し出した手はモフモフとした毛並みに覆われて、ギュッと力が込められた。



「じゃあ、コレ食べよっか!早くしないと冷めちゃう!!」


「うんっ!…あ、そのハムおれのね!」



ねえキャプテン、おれまた一つ大切なものが増えたよ。




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