貞操の危機、無事回避…?




ローさんに連れられて向かったのは、ハートの海賊団の食堂。

扉を開けると、既にクルーたちは敵船から奪ったらしい食料や酒でプチ宴を開催していた。



「…おっ!んじゃー船長も揃ったところで、改めて乾杯といきますか〜!」



ローさんの姿に気付いたシャチがジョッキ片手に声をかけると、ざわついていたクルーも同じようにジョッキを掲げた。



「ハイハイ!そんでは、えーっと…今日はお疲れさんでしたっつうコトで!カ〜ンパ〜〜イ!」



シャチが乾杯の音頭をとると、みんな一斉にグラスを鳴らしてゴクゴクと美味しそうに酒を流し込む。


私もローさんの隣で渡された果実酒に口をつける。それをちびちび飲みながらベポの姿を探していると、別のテーブルに座るクルーが声を上げた。



「船長〜!隣の可愛い子ちゃん、俺らにも紹介して下さいよーう!」




――……か わ い こ ち ゃ ん、だと…?



言われ慣れない言葉に舞い上がって思わず頬が緩む。ローさんの方をチラ見しながらニヤニヤしていると、ムニッと頬を掴まれた。



「ナマエ…安心しろ。言葉のあや、社交辞令だ」


「…い、いひゃいれふ」



掴んでいたほっぺから手を離すと、チッと舌打ちしながらローさんが私の紹介をしてくれた。



「今日から船に乗せることになったナマエだ」



それだけ言うと、目の前の皿に盛られたから揚げをフォークに突き刺してバクバクと頬張り始めたローさん。

へぇ〜意外と肉食なんですね、って…いやいや、ちょっと待て。えっ…紹介それだけ!?と脳内ツッコミを繰り広げていれば。



「……あァ、そうだ。お前ら、コイツには手ェ出すなよ」



ローさんが肩に手を回してきて、ニヤリと笑った。



「味見は俺がする」


「……はぁああ!?」



味見…ってなに!ナニするつもり!?ちょ、そのニヤついた変態顔まじで止めて。

分かったか、とクルーたちを軽くひと睨みするローさんの横顔を凝視していると、至極愉しげに口角を持ち上げた。



「男前だからって見過ぎだ。何だ、惚れたか?」


「なっ…ば、ちょ…!!あああ味見って…!」


「海賊船に女が乗る意味なんて、一つだけだろう」



から揚げを咀嚼しながらニヤニヤと笑うローさんの姿に、黒レースのひらひらパンティが頭をよぎった。

……何この貞操の危機フラグ…!こ、こんなの聞いてない!



「か、海賊船に女は乗せないって…!ガキは例外って言ってたくせに!ちょっとぉぉおお!!!」



ローさんの肩を掴んでがくがくと揺さぶりながら喚けば、ベチン!といい音を立てて頭を叩かれた。



「うるせェな…ちょっとからかっただけだろうが。男ばっかりの船ん中で間違いが起きても面倒くせェからクギ刺しといただけだ」



生憎女には不自由してない、そう言って私の手を払うローさんに途端に拍子抜けして力が抜ける。…と同時に、口は悪いけどどうやら私の身を案じてああいう言い方をしてくれたんだということに気付いた。



「…あ…ありがとう」



ぽつりと小さく呟いた声はほんの少し気まずさを含んでいたけれど、ちゃんとローさんには届いたらしい。



「…いいからさっさと食え。冷めるぞ」



差し出された山盛りのお皿に、ローさんの分かりづらい優しさが隠されているようで。

これから少しずつローさんのことをもっと知っていけたらいいな…なんてちょっぴり思ったりした。




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