プロローグ




"私一人が居なくなったとしても、この世界は何にも変わらないんじゃないかな"


独りで暮らすアパートに帰った時、灯りの消えた部屋の中でそんなことを考えたりする。
かと言って別にそれがツライだとか悲しいだとかは、感じない。…そんなもんかな、そう思うだけだ。


小さな1Kのアパートで一人暮らしを始めて早4年。高校時代の友達はみんな大学やら専門学校に通っていて、毎日コンパだサークルだと楽しそう。
同い年の友人たちのキラキラとした充実ぶりは、眩しすぎて何だか自分だけ取り残されちゃったみたいで。


でもそんな現実に目を逸らしながら―…
毎日ただただひたすらに、ありふれた日常を過ごす。


コンビニの袋を漁って、取り出したカップラーメンにお湯を注いで。出来上がるまでの3分間にカチカチと携帯画面に向き合っていれば、そんな憂鬱もどっかに行っちゃう。
うん、消えるわけじゃないってのは分かってる。誤魔化してるだけと言われれば、そうなるんだろう。


でも考えても仕方がないし、正しい答えなんて誰も持ってない。


だから今日もまた夜更かしして眠たい目を擦りながら、布団から這い出る。顔を洗って化粧をして、時間がないから朝食は野菜ジュースだけ。携帯やら財布やらを乱暴に詰め込んだショルダーを肩に掛けて、愛用の自転車にまたがる。


さぁ、今日もまた一日の始まりだ!



「って、うわ!もうこんな時間!やばいっバイト遅れる!!行って来ま〜す!」



慌ただしく駆け出す後ろ姿を見送って―…机の上に置かれた写真立ての中、優しげな男女が微笑んだ。


爽やかな土曜の朝、必死の形相で自転車を漕ぐ女がひとり。

緩くまとめ上げられたおだんご頭が向かい風に晒されて、崩れかけている。


苗字ナマエ、フリーター。
夢なし、金なし、彼氏もなし。


今の自分に満足してるわけじゃない、でも何が足りないかなんて分からない。

とりあえずご飯食べて仕事行って寝る毎日――そんな彼女の日常が変わるまで、あと少し。




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