エピローグ




「おいナマエ、後ろ向け。包帯外すぞ」


「あ、はぁーい」



船長室のベッドの上、ローさんが手際よく私の包帯を外していく。

やっぱりお医者さんなんだな、と実感するのはこういう時。怪我の手当てをする時だけは、あのローさんもセクハラ抜きに真面目にやってくれるから。



「ま、外傷は大したことねェからもう今日で包帯は外してもいいぞ」


「ホント?」


「ああ、打ち身が痛むとこだけでも湿布貼っとくか?」


「ううん、大丈夫。ありがとうね、ローさん!」



鈍くさいヤツだ何だとバカにしながらも、あの日からずっと手当てをしてくれているローさんにお礼を言えば―…振り向きざま、おでこに触れた柔らかな感触。



「どうしたの…?」


「いや、…こうしたかっただけだ」



腰に回った刺青だらけの腕が、私を捕まえる。そのまま胡坐を組んだローさんの上にストンと下ろされ、強く抱きしめられた。

無言で腕の拘束を強めるローさんの、微かな吐息が首筋にかかる。



「ね、くすぐったいよ」


「…くすぐったくしてんだ」



背中全体に伝わる熱だとか、嗅ぎ慣れた匂いだとか、お腹の前で組んだ骨張った指だとか、すべてが愛おしくて―…笑いが零れる。



「……何それ…っふ、ふふっ…やめ、」


「ナマエ」


「ん…?」


「もう、二度と離れるな」



うん、と小さく紡いだ言葉は―…塞がれた唇から伝わって、ローさんに食べられてしまった。

お腹の中からしゅわしゅわと身体中に広がって、この溢れ出す気持ちでローさんの中をいっぱいにしてしまおう。













(ねえ、ホーキンスさんの言ってた『在るべき場所への回帰』って…結局ハズレちゃったね)
(あ?別にハズレちゃいねェだろ)

(へ?だって私、向こうの世界に戻らなかったんだよ??)
(だから、お前の居るべき場所は"此処"だったつーことだろ?)

(…ここって…ローさんの腕の中、ってこと?)
(他に何があるんだ。…おら、さっさと寝るぞ)
(ふふっ…、…はぁ〜い!)






end...?


2010.6.8 了
2011.5.12 加筆修正完了




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