きみの声




「…ナマエ……」



さっきまでナマエがいたはずの場所へとゆっくり近付いて、ザラザラした砂と転がる小石の感触を確かめるように、地べたへ手をついた。



「…クソッ!……んだよ、これは…ふざけやがって…っ!!」



膝をついてしゃがみ込んだまま、ぶつけようのない苛々を握り潰すように地面に爪を立てる。


ただ思い浮かぶのは、ナマエの姿。


バカみたいに大口開けて笑う姿、美味そうにコックの作った飯を食う姿、風呂上がりの濡れた髪、無防備な寝顔、


それから―…


耳にこびり付いて離れないのは、最後の悲痛な叫び声。


俺に助けを求めたナマエの手を、掴んでやれなかった。





***





どれくらいの間そうしていたのだろう。

30分かもしれないし、もしかしたら5分も経っていなかったかもしれない。


何もかもが虚しくなって、苛々して、目に付くもの全てを切り刻んでやりたくなった。


―…あぁそうだ、丁度いい。バラしたままの海兵をそのまま放置していたんだった。


ふと思い立って傍らに置いてあった刀を持ち直し、ゆらりと立ち上がる。

――と、その瞬間。












「……ん…ぅ………ろぉ……さ、」




「……!」





微かに耳に届いた声は、靴裏でジャリッと音を立てる小石にかき消されたとしても、決して間違うはずがない。


慌てて周りを見渡すが、しかし視界に映るものは何一つとして俺の期待に添うものではなかった。


ドクドクと痛いほどに脈打つ心臓に気付かぬ振りをしながら、もう一度小さくナマエの名を呼ぶ。





「……ナマエ……?」




「…あぃた、た……ロー…さん、こっ…ち…」





先ほどよりもはっきりと耳に届く声に、逸る気持ちを必死に抑えながら一歩、また一歩と声のする方へと近付いた。




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