だから、走り続けることを止めない




必死に自転車を漕いで街外れまでやって来ると、潮の香りがして海が近いことを感じた。


あと少し!あと少しでみんなが待ってる船に戻れる!!

早くみんなに知らせなきゃ…!いくらローさんが強くても、さすがに一人じゃ多勢に無勢だ。


ぷるぷると震える太ももに鞭打ってペダルを漕ぐ足に力を込めた、その時――…





「おいっ!あの自転車に乗った女じゃないのか?」


「!!」



…しまった、 見 つ か っ た!


きっとさっきの海兵が仲間に知らせたんだろう、三人組の海兵が近付いて来る。

ヤバい、この分じゃ海岸沿いは他にも海兵が待ち伏せているかもしれない…。



『 困った時に投げてみるといいさー 』



ふと武器屋のおじさんの言葉が蘇って、ショルダーバッグに入った二つの玉の存在を思い出した。



「大人しく止まるんだ!」



威勢良く叫ぶ海兵の言葉に、ゆっくりと自転車を漕ぐのを止める。


――…もう少し、この玉を投げて届く位置まで…――



「…よし、それでいい。下手な抵抗は止すんだ!」



あと数歩で海兵が伸ばした腕が届くという瞬間、渾身の力で握りしめていた玉を投げつけてやった。もちろん投げた後は、光の速さで逃げ出すことも忘れずに。



「うわ…っぷ!こらっ!お……い………スーー…」



逃げ出す途中で後ろを振り返ってみれば、薄れていく煙の中に折り重なるように倒れ込む海兵の姿。



「あ、煙幕…しかも寝ちゃったし」



催眠効果のある煙幕玉とは…あの厳ついおじさんは、なかなかステキな贈り物をくれたらしい。



「あっ…感動してる場合じゃないや、早く逃げないと!」







***







「はぁ…はっ…クソッ、全力疾走なんていつぶりだ…はぁッ…」



ナマエのヤツは無事に船まで辿り着けただろうか。


こんな風に海軍に追われることは俺たち海賊にとっちゃ、日常茶飯事。海の上じゃいきなり大砲をぶち込まれたり、もっと危険な目にだって遭う。


だがナマエは…――戦う術を持たない、普通の女だ。海賊である俺とは違いすぎる。


アイツが幸せになれるのはきっと、戦いに明け暮れるこの世界―…俺の傍じゃねェんだろう。元居た平和な世界に戻れることが、ナマエの為なんだ。


そう言い聞かせた胸がギリリと痛んだのに気付かぬフリをしたまま、走り続けていると――

視界に飛び込んできたのは、重なるように倒れ込む三人の海兵。



「…これ……まさか、ナマエがやったのか…?」



何故?どうやって?という疑問は次々と頭に浮かぶが、それよりもまずはナマエの無事な姿を見ないと落ち着かねェ。



「…待ってろ、すぐに追いつく」



俺は刀を担ぎ直して、また走り出した。




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