始まるカウントダウンに何を想う




恐れ多くも死の外科医トラファルガー・ローの運転で、風を切りぐんぐん進む自転車は街を目指す。


ちゃんと掴まっとけ、と言われて何とか器用に刀を片手で抱えると、空いた右腕をローさんの腰に回した。


――…うん、なんかヘンな感じ…


細い細いと思っていたローさんの身体は意外とがっしりしてて。やっぱり女の私とは身体のつくりが全然違うんだなぁ…なんて思ったり。


そんなくだらない事を考えていると、自転車は一軒のカフェの前で止まった。



「わ、可愛いお店ー」



いかにも女の子が好きそうな甘ったるいケーキやワッフルが並ぶメニューは、ほんの少し沈んだ私の心を浮上させる。


口では意地悪なことを言うけれど、こうやって私が好きそうなお店へ連れて来てくれるローさんの小さな優しさが、素直に嬉しかった。


さっそくオープンテラスで注文したワッフルにがっつく私を、静かに見つめてくるローさん。



「…えっと……?」


「なぁ、ナマエ」


「…はい」


「お前は…もし元の世界に戻る方法が分かったら、どうする?…戻りたいと願うか?」



ローさんの言葉――それは、さっきホーキンスさんと別れてからずっと私が心の中で考えていたことでもある。



「………分からない。…実際にそうなってみないと、自分でも…分かんないよ」



そう…自分自身の気持ちが、ぐちゃぐちゃと頭の中で絡まる色んな感情が、全く整理がつかなくてどうしようもなく不安になる。



「そうか」



俯いたまま食べ残しのワッフルを見つめていたら、頭にポンと大きな手が乗せられた。



「さっさと食っちまえ、冷えてカチカチになるぞ」



ローさんがさっきの質問に対する私の答えに、納得したかどうかは分からなかったけれど。

分からない感情に悶々と問いかけ続けるよりかは、今この瞬間を楽しむことの方が大切なんじゃないかと思えたから―…



「…うん!」



にっこり笑って残りのワッフルを口に放り込むと、カフェを後にした。


今まで意識しなかった、ローさんとのお別れの瞬間――そのタイムリミットを心のどこかで感じていたのかもしれない。




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