2人乗り自転車、海岸通りを行く




ベポが部屋へ起こしに来た後、有無を言わさずローさんに連れて行かれた食堂。そこで私たちを待っていたのは―…


予想していた、からかいでも冷やかしでもなく、チラッと視線を寄越してはパッと逸らす…というお前ら中学生か!と突っ込みたくなるようなクルーの態度だった。


食事の間中、物言いたげな好奇の視線にチクチクと晒されるくらいなら、はっきり面と向かって何か言われた方がまだマシだ。


結局ゆっくり朝食を味わう気分にもなれず、クルー達にわざと意味深な笑みを向けるローさんを引き摺りながら早々に食堂を後にした。



「おい待てよナマエ、この時間に街へ行ったってまだ店は開いてねェだろ」


「むしろ買い物が目的じゃないですから」



まったくローさんは何も分かってない。…いや、違うな。分かった上でわざと面白がってるに違いないんだ!

膨れっ面のままスタスタと船の外へ向かう私を、引き留める声に振り返れば――



「だったら何だよ、というかそのヘン顔やめろ」


「うるさいっ!みんなのあの視線から逃れる為に決まってんじゃん!」


「あァ?…じゃあどうすんだよ、散歩でもするってか?」



面倒くさそうに後頭部をガリガリ掻くローさんの、やる気のない投げやりな提案。

けれどそれは、意外にも私の興味をそそるもので。



「……散歩…か、…うん…それもいいかも。あっそうだ!そう言えばさ、私が乗ってきたチャリってまだある?」


「…あの自転車なら多少へこんではいたが、乗れねェ事はないだろ」


「よしっ!じゃあ決まり!サイクリングしようよ!」


「マジかよ…」






***






チリンチリン、と呑気にベルを鳴らしながらママチャリが海岸沿いの道をゆっくり走る。



「ちょっとローさん、何で私が前…?」


「俺はバックが好きなんだ」


「何でかな?ローさんが言うと卑猥に聞こえるのは…というか、腰に回した手の動きが既にセクハラ!」


「おい、もっとスピード出せねェのか」


「華麗にスルーした上に文句言うならローさんが運転してくだ…、あれ…?」


「あァ?どうした…、……あれは…」



キキッ、と音を立て止まった自転車。その荷台から降りた、ローさんの視線の先には――…


黒いローブを纏った男を数人従えて街へ向かうのだろう、ゆったりと歩く長髪の男の人。



「魔術師バジル・ホーキンスだー!」



見覚えのあるシルエットに興奮して、思わず張り上げてしまった声。

そんな私の声に気付いた男が、歩みを止めてゆっくりと振り返った。




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