外科医よりお部屋を賜りました




―――ジャーーー…バタン!



「は〜スッキリしたぁ!」



ひとまずバラバラの体を元に戻してもらい、船長室備え付けのトイレへ駆け込んだナマエ。
あらゆる不快感から解放されトイレから出てきたナマエは、清々しいまでの笑顔だった。



「………」



度胸があるのかただの馬鹿なのか、先ほどまでビビっていた女は妙にスッキリした顔で自分の前に座った。


値踏みするような視線を目の前の女に隈なく走らせる。…正直こんな間抜け面が、他の海賊だとか海軍だとは到底思えない。


しかしただの若い女だと舐めてかかる程、俺はバカじゃねェ。分からねェなら、分かるまでとことんハッキリさせてやろうじゃねェか。



「さて、お前が知っていることを全て喋ってもらおうか」




***




目の前の女…ナマエが言うには、この俺達が暮らす世界は女の世界からすると空想の物語―…漫画の中に存在するのだという。


ナマエはその漫画のファンで、登場人物のことも良く知っているのだと言った。




「し、信じられねぇ…」




呆けたようにシャチが呟いた。


確かにそれは普通に考えれば、頭がおかしいとしか言いようのない発想。

しかし実際、この女の持ち物は見たこともないような不思議な物ばかり。


――そう、今ローの手の中にある『携帯』という物もそうだ。

ピンク色をしたナマエの携帯にはストラップ代わりのキーホルダーがじゃらじゃらと付いている。


その中に見つけた2頭身の小さな人形――麦わら帽子を被って笑うソレと金髪に渦巻きまゆ毛のソレは、手配書で見たあいつらにそっくりだった。

(金髪の方は少しイメージが違ったが、印象的なまゆ毛が決定的だ)



「あんたの話が本当ならば、俺達は作り物の存在だというのか?」



普段は冷静なペンギンの声色にもどこか焦りの色が滲む。



「それは……分からない…」


「分からない?ハッ…お前の世界の話だろうが」



困ったように眉尻を下げる女。分からない、知らない、出来ない…か弱い女を演じりゃ、男が何でも許してくれるとでも思ってるのか?…フン、馬鹿馬鹿しい。



「…だって、現に今あなた達は私の目の前に存在してるでしょ?」


「……」


「…ただ誰も実際に体験してない世界っていうだけで…この世界はもう私にとっては空想じゃなくて、現実だもん!」



しかし、鼻で笑った俺の意に反して―…この女、ナマエが続けた言葉に俺は目から鱗が落ちるようだった。



「…そうか、フフ…おもしれェ。そういう考え方は嫌いじゃねェ…何が起こるか分からない、このグランドラインにはピッタリだな…へへ…」



目を見りゃ分かる。コイツは嘘なんか言ってねェ。

だとすれば、俺たちの世界のこと―俺の知らねェ他の海賊や、海軍の情報だって得ることが出来る。


それに何より、しばらくは暇潰しになりそうないい拾い物をした――


そう思ってニヤリと笑うと、持っていた携帯をナマエに投げ渡した。



「ナマエ、お前の部屋を用意してやるよ。ただしおかしな真似したら容赦しねェ」




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