それは喩えるなら、捕食者の目




乱暴に開けた扉の先、船長室に私を押し込みながらローさんは一言「脱げ」と。



「……は?」


「は?じゃねェ。つなぎを脱げっつったんだ。お前の耳は飾りか?」


「いやいやいや、聞こえたけど!何で!?」



これはいよいよ貞操の危機かと、濡れて冷たくなったつなぎをギュッと握りしめながら身体をガードすると。ペシッと勢いよくおでこを叩かれて思わずよろめいた。



「痛っ!」


「何度も言わせんな。んなびしょ濡れの格好のままだと風邪ひくだろうが」



クローゼットから取り出したふかふかのバスタオルを押し付けながら、ローさんが私の背中をグイグイ押す。

ふらつきながら部屋の奥のシャワールームに入って、やっと気付いた。



「……げ!」



鏡に映る私――真っ白のつなぎがびしょびしょに濡れて肌に張り付いている。図らずも身体のラインをしっかり主張する形になっており、何ともエロいのだ。


…でもどうしよう、昨日脱いだ洋服は物置部屋だ。着替えがない。てか寒い。

そんなことをグルグル考えながら立ち尽くしていると―…



「おい、着替えだ」


「わっ!びっくりしたー。てかいきなり開けて、私が裸だったらどーするつもりですか!!」



脱衣所の扉からいきなりローさんが顔を覗かせた。しかもニヤニヤしながら。最低だな、おい。



「喜べ、じっくり視姦してやる」


「ぎゃー変態!!」


「そんなエロい格好しててよく言えたもんだ」


「ちょっ!見ないでよーセクハラ船長!!」



頭のてっぺんから爪先まで舐め回すように不躾な視線を送るローさんに、掴みかかる勢いで腕を振り上げるが――



「…っと、フフ…俺に盾突こうなんざ百年早ェ」



すぐに両手首を拘束されグイと力任せに引っ張られる。そのままハートの海賊団のマーク目がけて顔面ダイブをかませば、小馬鹿にしたような声が頭上から降ってきた。



「っ…もー!放して下さいっ」



細い割に筋肉質な胸板の感触に恥ずかしくなって、掴まれていた腕を振り解けば。思いの外拘束の力は弱かったらしく、あっさりとローさんの身体は離れていった。



「フン…んな格好で男の前うろちょろすんな、つーことだ。この船に乗ってんのはお前以外、全員男ってこと忘れんじゃねェ」


「……っ」



ニヤリ、という音が聞こえそうなくらい口端を持ち上げローさんが笑う。

無防備すぎた私への、船長としての警告なのだろうか。それだけ言ってさっさと脱衣所を出て行くローさんの背中を、ただ呆然と見つめることしか出来なかった。


(だって、笑ってるのに…笑ってない。あんな"男"の目をしながら言われたら…)




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