つながった赤い糸




微かに耳へ届く声に導かれるようにして覗き込んだ、切り立つ斜面の下に広がる砂浜。



「……………っナマエ!!!」



そこには全身を砂まみれにしたナマエが、だらしない笑顔を浮かべ力無く倒れていて。

慌てて刀を肩に担ぐとヒラリと砂浜に降り立ち、ナマエの元へと駆け寄った。



「ナマエ……お前、どうして…」


「あのね、自転車が見えない力に引きずり込まれるみたいになって…怖くなって、咄嗟にハンドルから手を離したの」


「…バカが、……良かったのか?」


「え?…何が…?」


「お前の自転車、あの変な渦に飲み込まれて消えた。恐らくあのまま自転車と一緒に消えてれば……お前は元の世界に戻れたはずだ」


「……うん」


「うん、じゃねェだろ。もう戻れないかもしれねェんだぞ?」


「うん、だから…いいの!……それとも私がこっちに残っちゃ、まずかった?」



ニコリと笑ったナマエだったが、眉間にしわを寄せたままの俺に気付くと、不安げに眉を下げる。


こっちに居たらまずい?迷惑?俺のこんなにも余裕の無い格好悪ィ姿を見て、まだお前はそんなことを言うのか?



「バカ…んなわけねェだろ!」



そう言ってナマエの身体を抱きしめた俺の声が酷く掠れていたのには、どうか気付かないでくれよ。ったく、情けねェ…



「…ちょ、痛いって…!ローさんっ」


「うるせェ、心配かけやがって!」


「…ぅ…ごめん、なさい」



痛いと文句を言うナマエの声にも、手加減なんて今は出来そうにない。このまま強く抱きしめていないと、今度こそ俺の傍から消えてしまいそうで。



「ナマエ…」



ナマエの肩に顔を埋めて、伝わるその温もりを確かめる。吸い込んだ香りは徐々に俺を落ち着かせて、安堵の溜息と一緒に弱々しい本音も吐き出させた。



「……よかった…」


「ローさん…」




(もう二度と、離したくねェ…)





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