無いものねだりの心がうるさい




「じゃあすぐ作業に取りかかるから15分くらい待っててもらえるかい!」



オヤジの言葉に軽く頷いて隣のナマエを見ると、何かを考え込むようにじっと立ち尽くしていた。


――コイツはいつもギャーギャー口うるさい癖に、肝心な時には自分の気持ちを押し込めるタイプらしい。



バジル屋の占い結果を聞いてから、ずっと考えていた。もちろん、占いなんて不確かなものを信じ切ったワケじゃねェが…。


だが、ナマエがこの世界とは別の場所から来たことは紛れもない事実で。それはつまり、コイツには還る場所があるということ。


頼れるものなんて何も無い世界へやって来たナマエの居場所は、間違いなく俺の船だけ。

しかし、元の世界に戻れるようになった時にも変わらず、ナマエは此処――俺の傍を自分の居場所だと言うのだろうか。




「…ローさん?」


「…っ…あぁ、どうした?」


「おじさんが呼んでるけど…」



――…だが、まぁ今考えても仕方がねェ…か。


第一、元の世界へ戻る方法が分かったワケじゃない。可能性として、元の世界へ戻る手段が存在するかもしれない…というだけのこと。


もちろん同じくらいの確率で、元の世界へ戻れない可能性だってある。



「兄ちゃん、待たせたな!こんな感じでどうだ?」


「…あァ、これでいい。ナマエ、ちょっと持ってみろ」



そうだ。ナマエだってまだ分からないと言っていたんだ。俺が今グダグダ考えたところで、何の足しにもならねェ。



「…ん。あ、意外と軽いんだね」



ナイフを持った右手を確かめるように大きく動かすナマエの様子に、小さく笑みが零れる。



「クク…危なっかしい動きしてんなァ、ナマエ。それはお守りみてェなもんだ…肌身離さず持ってろよ?」


「…うん、ありがとうローさん」



ナマエの柔らかい髪の毛の感触を楽しむようにクシャリと頭を撫でてやれば―…気持ち良さそうに目を細めたナマエが、ほんの一瞬だけ寂しげな表情を浮かべた。


――なぁ、ナマエ。お前は今、何を想ってるんだ?


確かに先のことなんてナマエにも俺にも、誰にも分かりゃしねェだろう。

だがせめて今この瞬間だけでも、お前が俺を求めてくるなら――…


お前の丸ごと全部、奪い去ってやるのに。


―…ナマエ、お前の気持ちはどこにあるんだろうな。まだ自分自身で整理のついていないだろうソレに、問いかけても仕方ないのは分かってる。


だからまだ来てもいないお前の未来まで手に入れたい、なんてことは言わねェし…言えねェんだ、俺は。




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