視界が不意に高くなった。 普段だったら絶対に見ることの出来ない風景が、視界いっぱいにこれでもか!と広がる。 勿論ここ最近成長期というものから離れてしまった自分に、いきなり身長が贈られたわけじゃない。(悲しきことに) ならば何故急に視界が高くなったのか、その答えは意外にも単純明快である。 『ベルトルト、急になに?』 出会い頭に、いきなり私を担ぎ上げた本人に対して簡潔な言葉を投げ掛ける。 その際に思ったよりも低い声が出てきた、私はそれなりに機嫌が良くないらしい。 規則的に訪れる振動に身を任せながら私は黒髪に視線を送った。 その黒髪の持ち主は顔こそ見えないが何処と無く雰囲気がほがらかなものであった、何故。 意味もなく地面を見下ろすと視界に小さな花が映りこんでくる。 その花は誰かに踏まれたのであろう、茎がぽっきりと折れ花弁はお世辞にもきれいとは言えない状態だ。 もう凜と咲き誇ることはないだろう花にさせてしまったのが、彼なのか他人なのかは分からない。 ただ通常の私であっても先程の花の存在に気づけるか難しいのに、平均よりも体が大きな彼は気づけるのだろうか。 何だか彼の視点になってみると色んなものがちっぽけに見えてくる。 あの日突如として現れた超大型巨人もこんな感じで人類を見ていたのだろうか。 塵や蟻でも見ているような目で、私たち人類を見下ろして。 気分が良くなる話ではないが、多くの謎に包まれた巨人の考えている事に気を揉んでもしょうがないだろう。 踏まれた花に対する意識はほっぽって、未だに何も私に告げないベルトルトに言葉を投げ掛けた。 もし今回も何も返ってこなかったら耳でも引っ張ろう、そう意気込んだ私のそれは無駄足に終わる。 彼はいつもと何ら変わらない声色で言葉を作った、まるで世間話をする時の穏やかな声で。 「ねぇ、僕たちの故郷に一緒に来ないかい?」 空はいつもよりも近くにある。 追記 2013/05/22 23:39 |