※オリジナル「少女Aの独白」の続き 柄にもなく熱を出して、吐き気や頭痛や喉の痛みに良いようにされている自分が滑稽に思えた。 「しばらくは大人しく寝てなさいよ」 『分かっているさ』 額に冷えピタを乗せて布団にくるまっている私に母はそう言ってくる。 それに返答する私の声は老婆みたくしゃがれたガラガラな声で、ああ…女として将来こんな声は嫌だなあとボンヤリ考えた。 バタリ、と玄関から聞こえるドアが閉まる音と鍵を掛ける音を聞いてから寝返りをうつ。 思っていたよりも体は動かず、こんな状態でどこかに出掛ける程私は馬鹿じゃあないよ、と心の中で母に静かに問いかけた。 にしても体が重い。 じわりと痛む頭を抱えながら私は瞼を降ろした。 (懐かしい夢をみた) 『ねぇ、私のこと覚えてる?』 「何言ってるの、当たり前でしょう」 そうアイツは笑う。 口角を上げ、目を細め、目尻を下げ、眉にわずかなシワを寄せて。 少し困ったように笑った。 そこからの記憶は曖昧で、昔話をしてから懐かしい友人の名前を出してあんなこともあったとまた笑う。 時おりお互いの近況を話してから最近の不平不満を口にして、相手はそれに頷く。 時間の流れも感じない程な穏やかな空間であった。 「ねぇ、」 『なに?なんかあった?』 不意に口を開いたアイツを不思議そうに見ると、その表情は今までに見たことのない穏やかなもので。 何かがいつもと違う、頭の中の冷静な部分が私にそう伝える。 思わず眉間に力がはいり歪な顔つきになるも、今更そんなのを気にしてられないと構わずに耳を傾けた。 唇が動く、私の鼓膜は震わない、もう一度と言葉を投げる、そしたらアイツは− 目を開けたら見慣れた天井が広がっていた。 不思議と眠る前にあった体の気だるさはなくなっていて、あんなに重かった体は軽々と起きあがる。 生ぬるくなった冷えピタを静かに剥がし、意味もなく宙を見つめた。 −−何言ってるの、当たり前でしょう 以前聞いたことがある。 人間が身近な人を亡くした時にまっ先に失うのはその人の声であると。 私も例外ではなかったようで、アイツの声も雲に隠れた月のように朧気になって少しずつ日常に還っていく。 これから何十年も生きていくならアイツとの思い出も漠然になっていくだろうし、声のみならず顔立ちや仕草も記憶から風化していくのだろう。 それでも、 私はアイツが生きていたことを、最後まで笑顔であったことを、忘れはしないだろう。 (もう前を向いて良いんだよ。) (涙は自然と溢れていた) 2012/12/25 17:10 |