こんなことがあっていいのだろうか。 自分よりも頭一つ分背が高くて、世間的にはいわゆる男前に分類される人間がでかいクッションを抱えて体育座りをするなんてことが。 『いい加減、機嫌直したら?』 「別に機嫌悪くねぇよ」 漫画だったらでかでかと顔に“不機嫌です”と書かれていそうな表情のまま、そんな事を言われても説得力は皆無な訳でして。 本当だったらため息の一つや二つ聞かしてやりたいのだが、妄想癖の彼の前でそれをやってみろ!面倒だぞ!! 別に彼に不満はない、むしろ私の彼氏であることが勿体無いくらいには良い彼氏だ。 ただ不意に訪れる妄想癖によって勝手に不機嫌にならないでくれ、と思うのは私のワガママだろうか。 『作さん、』 「何で他の男らと飲みに行くんだよ」 『女もいたし、忘年会なんだから多少は顔出さないとマズイでしょ』 思わず強くなった口調でそう言うと、彼は「でも……」と口元をふにゃりと歪ませ言葉に詰まる。 依然彼の腕にはクッションがあり、心なしか先程よりも力を強めて抱き締める姿はわが子を守るコアラのようだ。 クッションに印刷されている謎のキャラクターの顔は歪みに歪みまくっていて、幼子がいたら顔を青白くさせるレベルに達している。 クッション気を保って、生きて。 決して心を通わす事が出来ないであろう無機物と人間の間に今確かにキズナが築かれた! −大丈夫、まだ頑張れるよ−そんな言葉が聞こえた気がして、私は静かに盟友クッションに励ましの声を(頭の中で)かける。 これフィクションとして映画造ったらウケると思うよ、全米が嬉々した最高級の映画…いや、これはもう映画ではない!みたいな。 なんて茶番劇を脳内で繰り広げている間にも彼は難しそうな顔でうんうん唸っている。 えっ、何か私の行動が空気読めてないみたいになっているけど違うよ、あえてだからね。 『…作さーん?』 呼び掛けると同時に彼の双眼が私を捉える、もちろん私はそんなの予想してない訳だから肩が思いっきり揺れるは揺れる。 内心ドキドキしながらも表情には出さずに彼の言葉を待つ。 一体どんな事を言われるのだろうと身構えていると、ふいに強く香る彼の−−作さんのお日さまのような香り。 強く抱かれた感覚でようやく自分が彼に抱き締められている事を理解した。 うん、何ゆえ。 そう強く思いつつも何も言わずに黙りこんでいると、作さんは小さく(それこそ蚊の鳴くような声で)ぽつり、と呟く。 「他の男に会うなよ…」 弱々しく頬をすり寄せてくる彼は確かに女々しくて、男としてどうなのだろうと世間は思うかもしれない。 ならばそんな作さんの頭を撫でて存分に甘やかす私はとんだ世間知らずなのだろう。 追記 2012/12/15 09:09 |