ウイルスに犯されれば私は死ねるだろうか。 絵に描いた日常をそのまま切り取ったような日々を過ごしていた私は、突如現れたブラック・ゴーストによって全てを奪われた。 平々凡々だった私はサイボーグにされ、いずれ朽ちる筈だったこの身は半永久的に生き永らえる体となる。 故に大切な人と共に生き絶える、なんてことは出来るわけもなく毎日ただ兵器としての使命に追われる毎日。 いっその事自らこの命を絶ってしまおうかと思ったが、何せこの体は機械である。 ちょっとやそっとじゃ壊れないし壊れたとしても奴らブラック・ゴーストによってあっという間に治されて、否、直されてしまう。 「だからソフトをインストールしなかったのか」 米粒よりも幾分か大きくて紙ほどの薄さを特徴としたチップを片手に、不機嫌そうに問うのは002−−またの名をジェットである。 短気で粗暴なジェットが壊さぬように繊細に扱っているそのチップは、私達の脳にウイルスが浸入しないようにする防御ソフトなのだ。 防御ソフトは日々進化するウイルスに対抗する為に、常に最新にしておかなければならない。 そうしなければウイルスに犯された私達は死ぬであろう、それが例え人間離れしたサイボーグであってもだ。 しかし私はそんな重要な役割をはたすソフトをインストールせずにいた、故に今こんな状況に陥っている。 『分かっているならそれ貸して、壊すから』 「嫌だ、お前を死なせたくねぇし」 死にたいが為にソフトをインストールしないどころか破壊しようとする私にジェットは怒気を含んだ声を浴びす。 彼からしてみれば仲間である私を死なせたくないからの善意を込めた行動なのだろうが、私からしてみれば全くもって迷惑な話であり非常に生殺し状態なのである。 『悪いけど貴方の親切の押し売りはただの有り難迷惑なのよ 私はさっさと死にたいの、いいからチップを貸して』 気だるけに差し出した腕にチップが渡ることはなく、代わりに彼の手が私の腕を掴んだ。 それからの行動は一瞬で、ジェットに腕を引かれた私は抗う術もなく波にのる漂流物のように彼の唇へと導かれる。 いきなりの事態に混乱するが、すぐに正気を取り戻し彼の肩を力一杯に押す。 でもジェットは私の抵抗に気にする事もなく後頭部を押さえつける事によって拘束を強めた。 頭に何かを埋め込まれる感触も同時にカチリと鳴った音も、唇を食まれて意識が真っ白になっている私には気付けることもなく。 唇が離れる頃には誰のものか識別できない涎とインストールを完了した事を伝える音声が私に残っていた。 (彼は私を死なせない) 2012/11/11 16:35 |