「お前はいつか世界樹に還るのか?」 ぽつりと乾いた空気に彼の声が響き、私の鼓膜を震わせた。 声のする方向にゆっくりと顔を向ければ、其処には夜風に髪を遊ばせているルークの姿が確かにあった。 表情こそ見えないが、その声音から彼の機嫌がよろしくない事は安易に読み取れ、私は苦笑を漏らす。 『急にどうしたのさ、ルーク君』 「…昔ガイから世界樹の話を聞いた事がある、 その話だとディセンダーは世界が平和になったら世界樹に還る事になっていた」 相も変わらない不機嫌そうな声で一つ一つ言葉を紡ぐ彼に耳を傾けたが、私には何故彼がそこまで不機嫌なのかが分からなかった。 こんな時、ガイさんだったら理解出来るのだろうかと、今ここにいない金髪を思い浮かべる。 しかし金髪の彼を思い浮かべてもこの状況は変わらないので、少しでも情報を引き出そうと試みる。 『それがどうしたの?』 当たり障りのない言葉を知能の少ない私なりに考え、音にしたつもりだった。 「お前は何も関わってないのに世界が危険になった時に呼び出されて、使われるだけ使われていざ世界が平和になったら用済みだと世界から消されるんだぞ!!? そんなんで良いのかよっ、お前はこんなにボロボロになって戦っているのに…!」 私の発言が彼の怒りの発火材になってしまったのか、彼は感情に任せて言葉を吐き出した。 しかし最初は勢いのあった言葉も段々弱いものになっていき、最後辺りは消えかけて拾うのもやっとな程だった。 彼は私の為に私の分も怒っているのだろうが、肝心の私はこんな時にどの様な術をとるべきなのか分からず、只曖昧に笑う事しか出来ないでいる。 『ありがとう、ルーク君 私は大丈夫だよ』 嗚呼、何がディセンダーだ。 様々な感情が混ざり合い、せっかくの彼の端正な顔を歪ませる事しか出来ない自分を叱咤し天を仰いだ。 月が身震いする程までに美しいのは、私が消える前兆でも示しているのであろうか。 (英雄なんてそんなもの) 2012/03/27 14:34 |