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01 : SF



 鯉登くんたたき起こされた私は、着替えるからと鯉登くんに伝えてベッドのカーテンを閉めた。

 が、鯉登くんが部屋を出ようとする気配を感じ、私は慌てて呼び止める。



「出て行かなくてもいいじゃん。カーテン閉めてるんだから。一緒に教室まで行こうよ」

「そ、そうか…?」



 なんか様子が変だ。

 夢が夢だった事もあるし、寝ぼけて怖い寝言でも言っていたのだろうか。



「体育どこだって?」

「視聴覚室だ」

「ふーん、またビデオ見せられるのかな。あのしょーもないヤツ」



 視聴覚室は旧館から近い。

 急いで着替えれば間に合うか。

 少し急ぎながら制服に着替え、カーテンの中から飛び出した。



「おまたせ!行こう」




 妙にそわそわしている鯉登くんと視聴覚室に向かうと、すでに教室にはほとんどの生徒が集まっていた。

 みんな、しょうもないビデオを見せられるのを分かっているのか、どこかやる気がなくてざわついている。

 暇なことを見越して、それぞれグループごとに集まって席に座っている生徒が大半だ。


 後ろの端っこの方に2席だけ空いている席を見つけ、私たちはそこに腰掛けた。



「ねえ、鯉登くん?」

「なんだ?」

「寝てる間、私……」

「知らん」



 喰い気味に答える鯉登くんにあっけにとられる。

 私、そんなに変な事したんだろうか。



「ああ…そう…」



 それ以上なにも言う気になれず、私は黙り込んだ。

 そんな事をしている間に体育教師が点呼をはじめ、しょうもないビデオの視聴会が始まった。


 夏休み前恒例の薬物がどう、危険ドラッグがどう、タバコがどうのしょーもないドラマ仕立ての教材だ。

 別にそういうのを軽視しているわけじゃないけど、問題は内容のチープさだ。

 いまだにVHSの映像教材の学校なんてどこにあるんだろう。
 廃校寸前の田舎の小中学校にだって、DVD教材くらいはあるはずだ。

 こんなのだったら、自動車教習場で見せられる映像教材の方が千原せいじが出てる分、まだ見応えがある。



(終わりなき贖罪ってやつね…)



 映像を見るでもなく、話すわけでもなく、隣や前の生徒がざわついているのを聴きながら肘をついてぼーっとしていると、鯉登くんが話しかけてきた。



「おい、飛鳥」

「なに」

「おやっどにわいの事を話したぞ。お前、夏休みは予定がないと言っていたな」

「別に…15日まで何も予定ない」

「泊まるのかと聞かれた。どうするのだ?」

「泊まり?うーん、泊まりかあ…」

「親戚が来る日じゃっで、気は使うなと言っている」



 そう言ってくれてるならいいかなって気がしてきた。

 行きは送ってもらうとして、帰りも送ってもらえる保証はないから新幹線。

 でも、車でも何時間もかかる道のりを1日で帰る事を想像すると、ちょっとげんなりする。

 実際、毎年1日はどこかで一晩すごして、それから帰っていた。

 多分だけど、鯉登くんの家の事だから広そうだし、寝る時も気を使わなくてよさそうだ。



「じゃあそうしよっかな。ほんとに迷惑じゃない?」

「ぜひ泊まれと言っているのだ。心配なかじゃろ」



 鯉登くんはラインらしき画面が映った携帯に向かい合うと、何かの文章を打ち始めた。

 いくら飽和状態にあるからって、鯉登くんって授業中に携帯いじったりするんだ。


(……私の影響?)


 考えすぎか。



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