鯉登くんたたき起こされた私は、着替えるからと鯉登くんに伝えてベッドのカーテンを閉めた。
が、鯉登くんが部屋を出ようとする気配を感じ、私は慌てて呼び止める。
「出て行かなくてもいいじゃん。カーテン閉めてるんだから。一緒に教室まで行こうよ」
「そ、そうか…?」
なんか様子が変だ。
夢が夢だった事もあるし、寝ぼけて怖い寝言でも言っていたのだろうか。
「体育どこだって?」
「視聴覚室だ」
「ふーん、またビデオ見せられるのかな。あのしょーもないヤツ」
視聴覚室は旧館から近い。
急いで着替えれば間に合うか。
少し急ぎながら制服に着替え、カーテンの中から飛び出した。
「おまたせ!行こう」
妙にそわそわしている鯉登くんと視聴覚室に向かうと、すでに教室にはほとんどの生徒が集まっていた。
みんな、しょうもないビデオを見せられるのを分かっているのか、どこかやる気がなくてざわついている。
暇なことを見越して、それぞれグループごとに集まって席に座っている生徒が大半だ。
後ろの端っこの方に2席だけ空いている席を見つけ、私たちはそこに腰掛けた。
「ねえ、鯉登くん?」
「なんだ?」
「寝てる間、私……」
「知らん」
喰い気味に答える鯉登くんにあっけにとられる。
私、そんなに変な事したんだろうか。
「ああ…そう…」
それ以上なにも言う気になれず、私は黙り込んだ。
そんな事をしている間に体育教師が点呼をはじめ、しょうもないビデオの視聴会が始まった。
夏休み前恒例の薬物がどう、危険ドラッグがどう、タバコがどうのしょーもないドラマ仕立ての教材だ。
別にそういうのを軽視しているわけじゃないけど、問題は内容のチープさだ。
いまだにVHSの映像教材の学校なんてどこにあるんだろう。
廃校寸前の田舎の小中学校にだって、DVD教材くらいはあるはずだ。
こんなのだったら、自動車教習場で見せられる映像教材の方が千原せいじが出てる分、まだ見応えがある。
(終わりなき贖罪ってやつね…)
映像を見るでもなく、話すわけでもなく、隣や前の生徒がざわついているのを聴きながら肘をついてぼーっとしていると、鯉登くんが話しかけてきた。
「おい、飛鳥」
「なに」
「おやっどにわいの事を話したぞ。お前、夏休みは予定がないと言っていたな」
「別に…15日まで何も予定ない」
「泊まるのかと聞かれた。どうするのだ?」
「泊まり?うーん、泊まりかあ…」
「親戚が来る日じゃっで、気は使うなと言っている」
そう言ってくれてるならいいかなって気がしてきた。
行きは送ってもらうとして、帰りも送ってもらえる保証はないから新幹線。
でも、車でも何時間もかかる道のりを1日で帰る事を想像すると、ちょっとげんなりする。
実際、毎年1日はどこかで一晩すごして、それから帰っていた。
多分だけど、鯉登くんの家の事だから広そうだし、寝る時も気を使わなくてよさそうだ。
「じゃあそうしよっかな。ほんとに迷惑じゃない?」
「ぜひ泊まれと言っているのだ。心配なかじゃろ」
鯉登くんはラインらしき画面が映った携帯に向かい合うと、何かの文章を打ち始めた。
いくら飽和状態にあるからって、鯉登くんって授業中に携帯いじったりするんだ。
(……私の影響?)
考えすぎか。