あの尾形っぽいものは、あの事務所で2人を射殺。数日後、現場から数十キロ以上離れた隣県の廃工場で、肉雑巾みたいになって発見された。これは全く関係ないけど、後日、射殺された鶴見の所属している暴力団に任意同行を申し込んだところ、拒否されている。
全部、作り話みたいだと思った。
本当のわけがない。
そんなドラマみたいな事あるわけない。
尾形の話は、テレビでは一切取り上げられなかった。今日もテレビでは、三流モデルのくだらない近状なんかが報じられている。
警察からの帰り道、私はポケットに妙な違和感を感じた。引っ張り出してみると、それは見覚えのない鍵だった。
鍵の先に番号の書いたプラスチックの板に見覚えがある。
「…………私のレンタルルームの隣だ」
何も感じないまま、私は馴染みのレンタルルームに向かった。何かを考えるのも面倒で、ただ残されているから行かないといけない。そんな気分だ。
今日も、隣の部屋を借りている中年の女性が、私に軽く会釈をして去っていく。あの人は、どんな事情で、どんなものを部屋に置いてるんだろう。
死体なのかもしれない、薬物かもしれない。………誰かを閉じ込めているのかもしれない。
尾形の残したレンタルルームは、私のと同様にごちゃついていて、統一性がなかった。何かの家具、そしてバッタ物っぽいバック。きっと、商売の在庫置き場に使っていたんだろう。どれも埃まみれで汚い。
ふと、部屋の隅に一部だけほこりを拭いとった跡のある棚があり、そこにはA4くらいの紙が折りたたまれて置かれていた。
そこには一文だけ、まるで鉛筆で書き殴ったような文字が書かれていた。
『あの子にもう一度会う』
あの子の部分にマジックで二重線が引かれ、その下に、角の整った綺麗な字で名前が書かれている。
『浦戸紬』
その時、私は初めて尾形がもういない事を実感し、鼓動も思い出せない彼の事を愛おしいと感じたのだった。
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