流星雨であやめただれか

「こんなことで心配かけて、ホンット漢らしくねェ!わりィ、なまえ」
「そんなこと思ってないよ、てかそりゃ落ち込むよね」

顔の前でてのひらを合わせて、大げさなまでに頭を下げる彼に悪態をつく気などさらさらなかった。流行りの音楽がBGMで全室共通で流れていて、リクエストを送信していないカラオケ用のテレビはかわいいアイドルの女の子がなにかの宣伝をしている。その音が意味をなすことはなく、ただ彼を直視できない視線は落ち着かず手元のグラスに落ちて、汗ばんだグラスから指先に水滴がひっつくのを、手持ち無沙汰に指先を擦り合わせて乾燥させた。ストローから吸い上げたオレンジジュースは、今の気持ちに不自然な甘さだ。

「つーか、いつから気づいてた?」
「え、なにに」
「俺が姉ちゃんのこと、なんつーの、……その、好きだって」
「えっと」

たぶん鋭児郎くんがお姉ちゃんを好きだって思うようになって、すぐだと思うけど。そんな心の声は鼻から吸い込んだ空気で喉元に押し返して、取り繕う声が代弁する。

「気づいたら…?だって、鋭児郎くん、お姉ちゃんのこと話すとき、ちょっと嬉しそうだもん」
「マジ?」
「うん、ずっと一緒にいたらそりゃ分かるよ」

ほんの少しの抵抗にも似た本音。口先を尖らせてる理由なんて、きっとあたまを抱えっぱなしの彼は気づかない。わたしのことを見てって言いたいなんて、鋭児郎くんはいちみりも思ってないんだろうねって頭の中でわたしがわたしに囁く。

「あー、まじか…はっずいな……」
「でもほら、お姉ちゃんもいつまで続くか分かんないし、今は灯台下暗しで気付いてないだけっていうか、鋭児郎くんが身近すぎて見えてないだけっていうか、」
「別に俺は姉ちゃんが幸せならいンだ。別れたらな、とかそういうこと考えんのはさ、良くねェよ」

ぴしゃり。せめてものフォローのつもりが、一刀両断されてしまった。赤い目がこちらを見ているかも。そう思うだけで心臓がひゅっとちぢこまった。
違うよ。鋭児郎くん。わたしは。噛んだ下唇がひりついた。

「──そしたら、」

まっすぐ見据えて、彼の両頬を二枚のてのひらでホールド。目線とは裏腹に、まっすぐじゃないずるいわたしを見てと乞う。
【模倣】。頭で思い描いた人物になりすますことができる個性。使い道ないなってずっと笑ってたけど、こんなときに使うなんてねって自嘲したことに、動揺している彼は気づかない。

「鋭児郎くん、わたしのこと『代わり』にしていいよ」
「えっ、」
「わたし、お姉ちゃんになれるよ」
「、……なまえ、何言って」
「だってわたし、鋭児郎くんが悲しそうだとちょっといや」

あやふやな本音を正論で否定させないために、彼の頬を捕まえたまま、顔を近づければそっと唇を重ね合わせた。わたしの唇だけど、彼にとっては姉のそれに見えているはず。わたしよりうんと力が強いはずの彼がそれを拒まなかったのは、呆気に取られていたからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
けれど、一度離れた唇が再び触れたのは、わたしが引き寄せたからじゃない。

「……っふ、 ぁ、」

唇の隙間から呼吸をするのが精一杯で、蕩けた目線が絡み合う。
それっぽいことばで繕ったわたしのずるい気持ちなんか、ゆるさないでいいよ。──なんて独りよがりは、熱のこもった目で訴えかけたところできっと、彼が知ることはない。

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