十四話


 昼休み、音楽室。机は片側に寄せられて、教室内はギリギリのスペース配分で男女ペアが手を握り合っていた。

「ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、わあっ!」
「おっと。大丈夫か?、」
「ご、ごごめんっ! 大丈夫!!」

 躓いて倒れてきたみょうじを抱きとめると、みょうじは顔を真っ赤にして慌てて立ち上がった。・・・柔らか。

「そろそろ休憩にしとこか。疲れたやろ」
「う、うん、ごめんね、へたくそで」
「初心者やったらしゃあないって。そないに難しいモンでもないし、慣れれば楽勝やで」

 優しい声で励ましてやると、恥ずかしそうに顔を赤らめた。・・・可愛い。なんや、好きって自覚した途端、より一層可愛く見えるようなったわ。
 みょうじと並んで、壁に寄りかかるようにして座った。みょうじは持参してきた飲み物を飲みながら、真剣にステップの解説書を読んでいた。みょうじは運動がどうにも苦手らしく、社交ダンスもやるんは初めてらしい。俺がきっちりリードしたるから、大丈夫やけど。練習て名目で会う口実もできて、一石二鳥やわ。
 誕生日、朝から色んな奴におめでとうの言葉やプレゼント、それに託つけた告白を受け取った。告白は勿論断ったし、プレゼントも女子からの分は受け取ってへんけど。俺はみょうじに一番祝ってほしかってんけど、なかなか会うタイミングが無く結局放課後になってもうて、諦め掛けた時。偶然、その日発売やった小説を買いに来ていた書店で、みょうじに会った。どうやら一生懸命プレゼント探しをしてくれとったらしい。物がなくても、その事実がめっちゃ嬉しかってんけど。なんでもする、っちゅう言葉に俺は閃いて、文化祭の社交ダンスの相手を頼んだ、ちゅうわけや。
 元々、跡部に強制されとった社交ダンスの相手に、今年はみょうじを誘う予定やった。どう切り出そうか、ずっと考えとったところにみょうじからの誕生日プレゼント。絶好のタイミングやったわ。みょうじには何度も自分でいいのかと確認された。みょうじやからやで、なんて、まだ言えへんけど。
 そう、言えへんのや。みょうじんこと好きやって自覚して。きっとまだみょうじは俺の事好きやと思ってくれとる。両思いと見てええとは思うねんけど、何せ俺にはこれまでの色々な前科がある。今告白したところで、みょうじからしたら唐突過ぎて驚かせてまうやろし、信じてもらえへん可能性もある。そもそもまだ全然そういう雰囲気にすらなっとらん。急に攻め過ぎて、混乱させるんは避けたかった。
 せやから、俺の計画はこうや。ここから約一ヶ月。文化祭までの期間、徐々に距離を縮め、みょうじに気があることを少しずつ気付かせる。そして文化祭当日。社交ダンスの時、みょうじに告白する・・・完璧なシチュエーションや。毎年ウチの後夜祭のキャンプファイヤーはやたら豪華やからな。ムード盛り上げるにもちょうどええやろ。文化祭で告白、いうんもベタながら良いロケーションや。我ながら完璧な計画やと思う。せやから、絶対に失敗はできへん。

「忍足くん、毎年社交ダンス出てるんだよね。だから上手なんだ」
「上手いかはわからへんけど・・・中二ん時からやな、跡部に五月蝿く言われたからなあ。跡部ん家で特訓までさせられたんやで」
「さすが。なんかもう、跡部くんの名前が出たら何でも納得しちゃいそう」
「言えとるな」

 柔らかく笑うみょうじを見て、俺も口元が緩んだ。・・・好きやって言うたら、どない反応してくれるんやろ。驚くやろか。そらそうやろな、今までがあんなんやったわけやから・・・嬉しいて、思ってくれるんやろか。俺に会うたび、会うだけで嬉しそうな反応をするみょうじのこと、もっと喜ばせたらどんな反応してくれるんやろ。そんな呑気なことを考えたいたところ、みょうじの指先に目が付いた。

「そういえば、どないしたん、その指」
「えっ? あ、これ、教科書の紙で切っちゃったの」
「せやったんか。気ぃつけなあかんで」

 みょうじの右手人差し指に、絆創膏が巻かれていた。紙で切ってまうことあるもんな。ありがとう、と笑うみょうじに無性に触れたくなって、優しく頭を撫でた。更に顔を赤くするみょうじに、俺も赤なってまいそうやった。

 こん時は、みょうじとのことが順調や思て、それ以外への意識が疎かになっとった。





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