【コンプレックス】…心の中で抑圧されて意識されないまま複雑な感情を担っている表象の複合体。劣等感。

必ずしも誰もが抱えているものであるコンプレックス。私の場合それは…


「あ、なまえいたの。小さすぎて見えなかったよ」




見上げる、見下ろす




出ました、今日も華やかな顔立ちにふわふわな髪、華奢に見えるが実はテニスで鍛えあげられたがっちりとした身体、そして向けられると誰もが失神してしまうような美しい微笑み。周りのギャラリー達はキャーキャーと騒いでいる。ほんと馬鹿みたい。あんな奴の何処がいいんだか。


「やあなまえ、今日も相変わらず小さいね、ちゃんと牛乳飲んでるのかな?あ、毎日飲んでるのに伸びないのか可哀相にね、おちびさん」


ほらやっぱり。毎日懲りずに喧嘩を売ってくる幸村精市。私が身長が低いのを気にしていると知っているのにも関わらず懲りる事なく挑発してくる。しかも中2からずっと。席が近いなら毎日言ってくるのも分かる…が!現在私は一番前の席窓側(くじ運が悪すぎて泣いた)であり、幸村は一番後ろの廊下側という一番離れている席にも関わらず、何かしら私の所に来て嫌味を一言二言吐いて去ってゆく。本当失礼極まりない。


「しかし本当小さいよね、なまえって身長何cm?」

『…』

「何か言えよチビ」

『……っ』

「チビチビチビチビチビチビチビチビチビ」

『………あー!もううるさいなー!150cmですけどそれが何か!』

「へぇー一応150cm代なんだね、俺てっきり140cm代だと思ってたよ」


くっそ!腹立つこの鬼畜美少年!これでも頑張ったほうだ。毎日毎日チビチビと言われるのを避ける為に必死で大嫌いな牛乳を飲み続けているのだから!お陰で一年前から約2cmは伸びた。継続は力なりとはこういうことだ。努力は少しずつだが確実に実っている!


「でも俺、一ヶ月前から2cmは伸びたよ」

『…』


やはり男子の成長期には敵わない。そう実感したとある日の休み時間。









次の日、相変わらず幸村は私の席にやってきた。でもいつもとは違って何か不機嫌と言うか…恐ろしいものを見たようなげっそりした感じ。


「ねぇ」

『な、何』

「あんまり頑張りすぎるなよ」
『…え?』

「あんまり気にするな」

『あ、あの…何を言っているのかさっぱり分からないんですけど…』


幸村はため息をついて私の目を見つめる。


「だから、身長のことあんまり気にしなくていいから」

『なんか今日の幸村気持ち悪い』


そう言うと、は?とにこやかに微笑みながらげんこつを喰らった。物凄く痛いのは手首にパワーリストを着けているからだろうか。


「俺さ、見ちゃったんだ。今日夢でなまえが俺くらいの身長で、俺がなまえくらいの身長になってたのを。正直かなりイラッときたし屈辱的だったよ。ていうかなまえに見下ろされたのがかなり腹立つ。」


語りながら私の机をバシバシ叩くのは止めてほしい。机壊れちゃう!


『でも身長が逆転なんて…想像すると気持ち悪いなぁ。』

「なまえもそう思うだろ?俺が150cmでお前が175cmだなんて、本当気持ち悪いよ。天地がひっくり返っても有り得ないからね。ある意味悪夢だったよ。」


よく考えてみれば、幸村と私とは25cmの身長差がある。いつも幸村が私を見下ろして、私が幸村を見上げる。いつまでたっても縮まらない身長差。これからは寧ろその差が広がっていくのだろう。男子の成長期には敵わないからね。それがなんとなく幸村自身とも離れていくような気がして不本意だが少し寂しくなった。


「やっぱりなまえはチビでなくちゃね」

『何よそれ』

「チビじゃなきゃやだ」


そう言うと屈託のない笑顔を私に向けた。


「なまえは小さいくて可愛いんだからさ」



男子の成長期にも、優しい目で私を見つめながら頭をくしゃっと撫でる彼にも敵わない。そう思ったとある日の昼休み。


おまけ→

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HAPPY BIRTHDAY*
Seiichi Yukimura!

(20110306)
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