照山くんとテルヤマくん
「よーしよしよし、照山は本当にいい子だなあ」
休日の昼過ぎ。
僕は近頃お気に入りなバンドが新しいシングルを出したと聞いてレコード屋さんに行った帰りで、ついでにと母に頼まれた買い物を済ませるべくスーパーに向かっているところだった。
冒頭の声を聞いたのは、丁度チラシを見て安売りの商品をチェックしながら郵便局の向かいの公園の前を通った時である。
「………!?」
今のは明らかに小村君の声だ。毎日のように、それはもうご飯を食べたり睡眠を取ったりするのと同じくらい毎日のように繰り返して聞いている声だから、間違えるはずがなかった。
これは一体どういうことなのだろうか。解りきったことを念のためもう一度確認するが、僕の名字は照山だ。しかし先程の「照山」は僕をさして使われた言葉ではないだろう。仮にこちらに向けられたものだったとしたら謎すぎて説明がつけられない。
「よーしよしよし」なんてまず人間には言わないだろうし(もしかしたら色々なアレがソレでそういうやり取りをする人達が存在するかもしれないが、それはなんか常識的に駄目な方向だろう)、そもそも僕はまだ小村君の姿を確認できていなかった。小村君が姿も見えないような距離からよしよししているなら、僕は爽やかに友達をやめる。
僕はチラシの束をエコバッグにしまうとじりじりと公園の入り口に近づいていった。
中には滑り台やブランコやあまり使いたくない感じのトイレなんかが設置されていて、小さな子供達が楽しげに声をあげて走り回っていた。普通だ。
小村君の姿は見当たらない、というかまず大人が数えるほどしかいない。いるのは子供達の親とベンチで寝ているおっさんだけだ。
「…おかしいな」
さっきのは気のせいだったのだろうか。それにしてはやけにはっきりと聞こえたが。思いっきり照山って聞こえたが。
日頃小村君と一緒に過ごしてばかりいるから僕まで脳がどうにかしてしまったのだろうかと考えながら公園を後にしようとした時、すぐ近くにある植え込みが豪快に揺れ動いた。ツツジの花が三つほど落ちる。
「!」
「よしよし照山、よーしよーし」
………。
…ああ、ここか。
普通なら僕と同い年の男がこんな所に埋もれているなんて思いつきもしないだろうが、僕はここに彼がいると確信を持った。相手は小村君、普通の考えしかできないようじゃ付き合いきれない。
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