小説 | ナノ


これがないと落ち着かない





「おいツナ、初音は今日からイタリアに行くからな」
「へ?」

段々肌寒くなってきたとある朝。
いつものように、母さんの作ってくれた目玉焼きをトーストに乗せてかぶりつこうとしていると、リボーンが何でもないようにそう言った。

「え、何で?」
「色々あんだよ。とりあえず2・3日もすりゃ帰ってくんだろ。お前はその間せーぜー寝坊しねーように気をつけろよ」
「ちょっ、リボ…」

一方的に告げられた事後報告に、疑問をぶつける間もなく早く食えと背中を蹴られた。
そのまま遅刻しそうだと言われ、釈然としないままリボーンと共に家を飛び出した。

………と、いうのが3日程前の話。
その間に初音が帰って来る事はなくて、オレはどこと無く物足りなさを感じながら過ごしていた。
朝起きて、獄寺くんと山本と一緒に登校して、授業を受けて、帰って寝る。
いつもと何等変わらない筈なのに、そこに初音がいないというだけで酷く違和感を感じた。
京子ちゃんにも、「ツナくん、元気無いね」と言われてしまったし。
自分でもぼーっとしてる自覚はあったけど、いつもオレに理不尽な課題を出す数学の先生にまで心配されたくらいだったから、多分相当なものだったんだろう。

「………オレの顔、そんなに酷かったのかな」

呟いて、自分の顔をぺたぺたと触ってみる。
人に見られたらちょっと恥ずかしいけど、もう獄寺くん達とは別れたしこの辺りは人通りも少ないから大丈夫だと思う。
それに、今日こそ初音が帰って来るかもだし。変な顔してるのを見られたらたまったもんじゃない。
オレをそれはそれは楽しそうにからかう初音の姿が容易に想像できて、ふ、と苦笑した。
そうだ、リボーンは2・3日もすれば帰って来るって言ってたんだから、きっともう帰って来てるさ。
そう考えると、不思議と頬が緩んで、早足に家に向かった。
……んだけど、そんな淡い期待は、家のすぐ側の曲がり角を曲がった瞬間に、驚きのあまり吹っ飛んだ。

「何これー――――!!!?」

え、ちょっと。待って待って。
確かにリボーンが家に来てからは非日常続きで不足の事態には慣れてきたけど、流石にこれは有り得無いって。
視界一杯に広がった黒服&恐持ての集団を見て、目尻に涙が浮かぶのを感じた。
うぅ…誰か……初音…助けて……。

「……………………………あのう、ここ、通っても良いですか……?」

でも、今までの経験上、この人達はリボーンの知り合いだろうから、多分いきなり殴られたりする事は無い。……はず。
そう割り切って、今にもへたりこんでしまいそうな下肢を叱咤して黒服の集団の1人に話し掛けると、ギロリと視線を向けられて本気で泣きそうになった。

「ダメだ。悪いが、今は沢田家の人間しか通せないんだ」
「えっ」

思いの外親切に答えてくれた黒服の男の人の言葉に、思わず声をもらす。
そっか。オレの家の名前が出て来たって事は、確実にリボーン絡みだ。……よし、ちょっと安心した。

「えっと……。沢田 綱吉…なんですけど…」

怖ず怖ずとその黒服の人にそう言うと、周りが何故か一気にざわついた。
なんか、この方が、とか彼が彼女の、とか聞こえるけど、何なんだろ。

「申し訳ありませんでした!!」
「ささ、どうぞお通り下さい!」
「えっ!?」

人通りざわつくと、いきなり黒服の集団がみんな揃ってオレに頭を下げて家までの道をあけた。
それにびくつきながらも、何だかヤクザみたいだなぁと思いながらその間を進んだ。

「あー…もう最悪だよ。何だよあの集団。下手したら近所でオレん家がヤクザだと思われかねないじゃないか」

今日という今日は文句を言ってやらないと気が済まない。
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、玄関でクツを乱暴に脱ぎ捨てて階段を駆け上がった。
多分、リボーンはいつも通りオレの部屋にいるはずだ。

「リボーン! 何なんだよあの集団はぁっ!!」

ばん、と大きな音を立てさせて部屋の扉を開けると、その中にも2人家の前の人と同じような人がいて、少しびびった。

「待ってたぞツナ」
「はあ? 何なんだよ一体! 特にあの家の前にいた黒服の集団……」

言いかけた文句は、部屋の窓際に置かれた大きな黒塗りのイスを見て途切れた。

「いよぉ、ボンゴレの大将。はるばる遊びに来てやったぜ」
「………?」

そこから聞こえた聞き覚えの無い声に首を傾げる。
だけど、その拍子に視界の端に映った真っ白なそれを見た瞬間、そんなものは頭の中からすっ飛んだ。

「俺は…キャバッ「初音っ!!」……え」

黒いイスから聞こえてくる声なんてもうどうでもいい。
視線をイスから右に移して、驚いたような顔をした初音に飛びついた。

「つっ、綱吉っ!?」
「今までどこ行ってたんだよばかぁっ!!」

ぎゅう、と初音に抱き着いて、我ながら理不尽だと思いながらそう怒鳴った。

「え……っど、どこって、イ、イタリアに……」
「そんなのリボーンから聞いて知ってるよばかっ! ……知っているけどさあ。初音から直接言ってくれたって良いじゃん。あの日オレと顔合わせなかったわけじゃないんだし……寂しいだろ、ばか」

少しふて腐れて初音の肩に顔を埋めてぼそぼそと呟くと、頭をぽんぽんと優しく撫でられた。

「………うん。そうだね。ごめんね綱吉。あの時はちょっと、メンタル弱ってて。自分に余裕が無かったんだ」
「そんなの理由になるかばか。………オレの事大事って言うんなら、ずっとオレの傍にいろよ」
「うん……。ごめんね、綱吉」
「…ほんとだよ。ばか」

幼子に言い聞かせるみたいに優しい口調で言う初音に、何だか子供扱いされてるみたいで悔しい。
ぐりぐりと初音の肩に額を擦りつけると、初音はくすぐったそうに身をよじった。

「……綱吉、もう怒ってない?」
「……別に。最初っから怒ってないよ」
「そっか」

くすくす笑いながらオレの頭を撫でてぎゅっと抱きしめる初音に、今更ながら気恥ずかしくなる。
けど、何だか妙に嬉しそうな初音の顔をを見てしまうと、不思議とまあ良いかと思えて、大人しく頭を撫でられる事にした。

「おいお前等、いつまで自分達の世界に入ってんだ」
「「え?」」

ふと間に入って来たリボーンの声に2人一緒に振り向くと、リボーンが無表情ながらも呆れたような顔をしてこっちを向いていた。

「ったく、だから初音はしばらく自分の部屋にいろって言ったんだ」
「えー、だって綱吉に早く逢いたかったんだもーん」

コーヒーを飲みながらめんどくさそうに言うリボーンに、初音はにっこりと笑って言った。
何だか、今日の初音はいつもの5割り増しくらい機嫌が良い。
未だにこにこしてる初音を見てそう思っていると、リボーンにおい、と声を掛けられた。

「お前に客だぞ、ツナ」
「ヘ?」

リボーンが小さな手でくい、と指し示す方を見ると、ほんのり頬を染めて、何とも気まずそうに顔を反らす複雑そうな顔をした外人さんがいた。
キラキラのオレとはまた種類の違うくせっ毛の金髪を持ったその人は、オレの視線に気づくとまた少し気まずそうな顔をしてぎこちなく微笑んだ。

「あー…えっと。初めまして、俺の名前はディーノ。キャバッローネファミリーの10代目ボスで、あんたの兄弟子だ。よろしくな」
「え? は、はあ……どうも…って兄弟子?」

へら、と少し困ったように笑って言うその人に訳の解らないまま頷きかけて、引っ掛かった言葉に思わず聞き返した。

「おう。お前オーラもねぇし覇気も無いし面構えも悪いし幸も薄そうだし期待感もなさそうだけど、まあ初めはそんなもんだ。俺もお前と一緒で、リボーンに会う前まではボスの資質とかゼロだったしな。気にすんなよ」

いきなり爽やかな笑顔でさりげなく酷い事をばんばか言う美形さんをぽかんとして見ていると、また楽しそうに笑われた。

「っていうか、あの、オレの兄弟子って事は…貴方は……」
「そうだぞ。オレはここに来るまで、ディーノをマフィアのボスにすべく教育してたんだぞ」
「えっ、マジで!?」
「ああ。おかげで今じゃ5千のファミリーを持つ一家の主だ。本当はリボーンにもっと色んな事を教わりたかったが、お前の所に行くっつうんで、泣く泣く見送ったんだぜ?」
「は、はあ………」

雰囲気までキラキラしているこの人の言葉に、混乱しながらも曖昧に頷く。
この、まるで童話の中から出て来た王子様みたいな人が、リボーンの前の生徒……。
こんなに優しそうな人がリボーンの知り合いなんて。ていうか、リボーンにこんな常識人っぽい知り合いがいるなんて思わなかった。

「どういう意味だ?」
「イエ、何でも!」

じゃき、と構えられたギラリと光る銃口に咄嗟に両手を上げてそう言うと、リボーンはふんと鼻を鳴らしてそれを退けた。
………今更だけど、読心術ってこえー…。

「っははは! ほんっとお前昔の頃の俺にそっくりだな!」
「え?」

いきなりぶはっ! と吹き出した美形さんに驚いて目を丸くすると、美形さんはくくく、と楽しそうに笑いを噛み殺していた。

「あの……一応、誤解が無いように言っておきますけど、ぼ、僕はマフィアのボスになる気なんてさらさら無いんです」
「おーう。知ってる知ってる。リボーンから聞いてたしな。俺も最初はマフィアのボスなんてクソくらえと思ったもんだ…。ハナからマフィアを目指す奴に、ロクな奴はいない、ってのが俺の持論だ。お前は信用できる男だぜ」
「えっ、いや、だから僕は……」
「一生やらねぇって言うんなら……」

にこやかに自分の体験談やら何やらを語る美形さんに苦笑いして、遠回りにボスになるのを辞退する。
すると、美形さんはさっきまでのほんわかとした雰囲気をガラリと変えて、懐に手を入れた。

「ひぃ………っ!?」
「噛むぞっ」

驚いてどさりと尻餅をつくと、目の前にずい、とカメが突き出された。
状況が良く理解出来なくて眼をぱちぱちと瞬かせると、後ろの黒服の人達がひっかかったと言ってげらげらと笑い出した。

「え…(もしかして…今のオヤジギャグ…?)」

呆然としていると、ディーノさんが悪い悪いと言って、手に持ったカメを軽く動かして見せた。

「こいつは俺の相棒でエンツィオって言うんだ。リボーンにレオンくれって言ったら、代わりにくれたんだ」
「レオンはオレのだからな」

知るかよ。
どこまでもマイペースな美形さんとリボーンに、何だか軽く脱力してきた。

「あの……えっと、キャバッローネ…さん?」
「ははは、ディーノで良いってディーノで。これからよろしくな、ツナ!」

朗らかに笑う美形さん…もといディーノさんはやっぱりキラキラしていて、オレは何とも言えず苦笑するしかなかった。

「枝つきブロッコリーだぞー!」
「£#§∞∋¢!!」

そこに、空気を読まずにイーピンをからかって追いかけ回す。っていうか、ランボはまた手榴弾なんか持って…危ないっつの。

「またお前らは………。こらランボ!! 手榴弾持って遊ぶっていつも言ってるだろ!!?」

まあ毎度の事なんだけど、ランボはなんで懲りないんだろ……。
呆れ半分で叱ると、それと同時に、ランボがピンと張られたゲームのコードに足を引っ掛け、こけた拍子に両手に持っていた手榴弾が、ベランダから外へと飛んで行った。
しかも、その拍子に手榴弾のピンを抜いてしまったみたいだ。

「やべーな、外にはディーノの部下がいるぞ」
「そーいえばそうだった!!」
「あっ」

突然の事に、おろおろするだけで動けないでいると、初音が小さく声を上げた。
それと同時に、ディーノさんが勢い良く外へと飛び出す。

「えっ、ちょ、ディーノさんっ!?」

慌てて窓から身を乗り出して下を見下ろすと、ディーノさんは部下の人達に「てめぇら伏せろ!!」と声を上げて、懐から黒い鞭を取り出すと、それを巧みに操って鞭で手榴弾を搦め捕って、爆発する前にそれを高く放り投げた。
そしてディーノさんが奇麗に地面に着地すると同時に、家より高い位置で手榴弾が爆発した。

「わぁ…あの人格好良い……」
「でしょ?」

下で部下の人達と楽しそうにしているディーノさんを見ながら呟くと、すぐ隣で声が聞こえた。
見ると、初音が無邪気に笑ってディーノさんを指差して言った。

「ディーノさん、普段は頼りないけど、決めるとこではびしっと決めるんだよ。ある程度は」

何か最後に気になる一言があったような気がしたけど、やっぱり初音の笑ってる顔は、見てて安心する。
そう思いながら、オレの方も、知らず知らずのうちに笑っていた。

あれから、リボーンに今日は泊まっていけと言われたディーノさんは、それに二つ返事でOKして、何だか母さんともいつの間にかすっかり打ち解けて、夕食を食べている今も、ママンのゴハンは美味いな〜なんてにこにこしながら言っていた。

「よし。それじゃあ何でも聞いてくれ、可愛い弟分よ」

出された夕食を半分程食べ終えてから爽やかに笑って言うディーノさんに、ほんの少し苦笑する。
母さんは今風呂にお湯を溜めに行ったから、今ならそういう話をしても大丈夫だと思ったんだろう。
まあ、母さんなら、持ち前の天然さで目の前でマフィア関連の話をしても気付かなそうだけど。

「そーいやツナ、お前、ファミリーは出来たのか?」
「ああ。今んとこ獄寺と山本、あと候補がヒバリと笹川 了平ってとこだな」
「違うからリボーン!! 4人は友達と先輩!!!」
「いやいや綱吉、リボーンに何言ったって無駄だよ。諦めなって」
「お、初音解ってんじゃねーか」

相変わらず綺麗に骨を取り除きながら魚を食べる初音に感心しながらも、ごもっともな言葉に苦笑する。
確かに、こいつに何を言おうと、ちゃんと聞いてもらえる確率はせいぜい100分の1くらいだろう。
でも、言わずにはいられないんだよなぁ……。オレの性、っていうか。

「って、そんな事より、何でリボーンオレのとこなんか来たんだよ。ディーノさんとの方が上手くやっていけそうなのに」
「ボンゴレは俺達同盟ファミリーの中心だからな。何にしても、俺達のどのファミリーより優先されるんだ」
「えっ、ボンゴレファミリーってそんなに偉いんですか!?」
「そーだぞ」
「うげ、さらにブルー……」
「あははははは」
「おい、こっちは笑い事じゃないんだぞ初音」
「はははっ、はいはい、ごめんって」

じろりとじと目で睨むと、けらけらと楽しそうに笑う初音に、何だか怒る気も失せてきた。
ったく。ノー天気なんだから初音は………。

「で、ディーノさん。そのご飯のこぼしっぷりは如何なものなんでしょうかね?」
「え………? うわっ」

不意ににっこりと笑って言った初音の言葉に不思議に思ってディーノさんの方を向くと、茶碗から米が半分以上机にこぼれてるし、焼き魚は身がぐちゃぐちゃ。
ついでに味噌汁の茶碗も汁でべたべただ。
どんだけ汚い食べ方してるんだこの人。ランボだってもう少しきれいに食べるぞ……。

「ディーノは部下がいないと半人前だからな」
「はあっ?」

リボーンの言うところによると、ディーノさんはファミリーの為とかファミリーの前じゃないと力を発揮出来ないタイプらしい。部下がいないと運動能力が極端に下がるんだと。
何そのある意味究極のボス体質。部下がいないとご飯も満足に食べれないのかこの人は?

「またリボーンはそんな事を………。違うんだってツナ、初音。普段フォークとナイフだから、ハシが上手く使えねぇだけだよ」
「あ、そっかぁ…、そ、そうですよね!!」

ああ、うん、そうだよね!! 仮にもマフィアのボスだもんね! 食事一つまともに出来ないわけないよね!!
さっきのリボーンの言葉に本気でドン引いたので、ディーノさんの言葉を聞いて半分無理矢理思い込ませるように心の中で確認した。
はははは、と渇いた笑い声を上げて、気を取り直して夕飯に手を付けようとすると、それに被せるように、風呂場から母さんの悲鳴が聞こえてきた。

「っ!!? 母さんっ!?」
「奈々さんッ!!」

突然の事に驚いて初音と2人で顔を見合わせる。
けど、お互いに何をすれば良いかはもう解っていて、アイコンタクトを交わすと同時に、2人一緒にリビングを飛び出した。
それに合わせるように、後ろでびたんっと何とも痛そうな音が聞こえた。

「あ゛いたっ!!」
「えっ!?」

そのすぐ後に聞こえたカエルの潰れたような声に驚いて振り向くと、ディーノさんが足を縺れさせたように床に倒れていた。

「は? ちょ…えぇっ!? だ、大丈夫ですかディーノさん!!」
「何やってるんですかもうっ!!」
「そら見ろ、やっぱ運動音痴じゃねーか」

いたたたた…と言いながら起き上がるディーノさん何やってんだかと少し呆れた。

「綱吉! そんな事より今は奈々さん!!」
「えっ!? あっ、うん!」

初音の言葉に頷いて風呂場に行くと、母さんが脱衣所の前にへたりこんでいた。

「奈々さん! 大丈夫ですか!?」
「え、ええ。でも、あの、初音ちゃん。お、お風呂が………」
「お風呂………? って、うわっ!?」

すかさず初音が母さんに駆け寄ると、母さんが指を差した方、浴槽の方を見て、ぎょっとしたように目を丸くした。

「? 初音何見て……。………!!!?」

母さんと初音に駆け寄って、2人と同じ方を見ると、あまりの光景に絶句した。

何これ。
小型のガメラみたいなのが浴槽食べてる。え、何この規模の小さい王道怪獣映画みたいな状況。

「あちゃー。エンツィオの奴いつの間に逃げたんだ?」
「……え、エンツィオ!?」

びっくりし過ぎて呆然としていると、後から来たディーノさんの言葉に更にびっくりした。

リボーンいわく、エンツィオはスポンジスッポンっていうレオンみたいな特殊な動物で、水をかければかける程でかくなって狂暴になるうんたらかんたら。って、そんな説明今はいいっての。
イーピンの餃子拳も全然効いてないみたいだし。

「っていうかどうすんだよ! 家喰われてんじゃん!! ああ、大丈夫だから。イーピンは何も悪くないよ。頑張ってくれてありがとうね」

リボーンに力いっぱい怒鳴って、しょんぼりしたイーピンを慰める。
あああああ、家の風呂が………。

「下がってろツナ。てめーのペットの世話も出来ねぇようじゃあ、キャバッローネファミリー10代目の名折れってもんだ」
「ディーノさん!」

後ろから鞭を片手に前へ出たディーノさんに、ちょっと感動した。やっぱこうやってキメ顔されると格好良いと思ってしまう。

「鎮まれエンツィオ!!」

ディーノさんがそう言って鞭を振るうと同時に、初音に無言で肩を抱かれて引き寄せられた。
え、と驚いていると、丁度オレがさっきまでいた所の壁に、ばちん! と痛そうな音を立てて鞭がぶつかった。

「は…………?」
「悪ぃ、すっぽ抜けた! 大丈夫だったか? ツナ、初音!」
「大丈夫でしたけど、もうちょっと周りを見て下さいよ」

呆れた風に溜息をつく初音と申し訳なさそうに眉を下げるディーノさんを見比べる。
え、ちょ、まさか。さっきリボーンが言ってたのって、本当に本当………?

「しょうがないなぁ。私が何とかしてあげる」
「えっ、初音がっ? でもあんなのどうやって……」

ふう、と肩を竦めて前へ出た初音にそう聞くと、初音は得意げに笑っていつの間にか自分の肩に乗っていたルリを指差した。

「ふっふっふ。山椒は小粒でもぴりりと辛い。体は小さくとも力と心は無限大。
ルリー………GO!」
【キュウウッ!】
「ええぇぇ!!?」

初音の変な口上に促されるようにルリが勢い良くエンツィオに飛び掛かると、素早く首元に咬みついて、風呂場の床にエンツィオを叩きつけた。

「ウソ…すっげー……」
「ふふふ。私の相棒は優秀なのよ。ねぇルリー?」
【キキュウ〜】

初音の言葉に応えるように彼女に擦り寄るルリを見て仲良いな〜と思いながら苦笑する。
とりあえず、自分のペットをしっかり管理していなかったディーノさんに一言言ってやりたかったけど、初音の気の抜けたような邪気の無い笑顔を見たら、もう何だかどうでも良くなってしまった。
その後、ディーノさんが風呂場を弁償してくれる事になって、今夜はみんなで銭湯に行く事にした。





これがないと落ち着かない
(ああやっぱ)(初音が傍にいると安心する)





→おまけ