小説 | ナノ


おまけ





午後7時半、並盛銭湯にてほかほかと程良く温まった体をマッサージチェアに預けて、ほう、と小さく息をついた。
夕食の時に、エンツィオに浴槽を破壊された所為でオレの家の風呂は入れなくなったため、じゃあ銭湯にでも行こうかという話になって、オレと母さん+居候+初音とディーノさんでこの並盛銭湯に来る事になった。
ちなみに、その銭湯を誰よりも楽しみにしていたディーノさんは、腕も刺青の所為でお風呂には入れないで、仕方なく後で初音の家の風呂でシャワーを浴びる事になった(ディーノさんは半泣きになってた)。

ちなみに、初音の家の風呂を使えばよかったっていうのに気付いたのは、風呂から上がって着替えている時だった。
多分、初音の奴わざと黙ってたな。ついでにリボーンも。

「ひゃっ!?」
「あはは、やっほー綱吉。はいこれどーぞ」

……と、そんな風に物思いに耽っていると、不意に頬に感じた鋭い冷たさに、つい変に高い声が出た。
それがなんだか恥ずかしくて、オレに冷たい何かを押し付けた張本人を睨みつけると、彼女は楽しそうにけらけらと笑った見せる。
そこから少し視線をずらすと、オレの頬に当たったのが銭湯では定番の、瓶に入った牛乳だと言う事が解った。

「………初音、いきなり何すんだよ」
「えー、だって綱吉が若いくせにマッサージチェアになんて座って休んでたから、ちょっと驚かせてみようかと思って」
「あほか」

少し不貞腐れて言うと、初音はやっぱり楽しそうに笑って、自分も隣のマッサージチェアに腰かけると、先程オレの頬に押し当てたビン牛乳をオレに渡すと、自分もどこからか同じものを取り出して、フタを開けてとくい、一気に呷った。
牛乳が彼女の喉を通るさいに、その喉が緩やかの動くのに妙な艶めかしさを感じて、居た堪れない気持ちになってさっと視線を顔ごと外した。

「本当は、売店にこれの他にフルーツ牛乳とコーヒー牛乳とイチゴ牛乳があったんだけど、私よく考えてみたら綱吉のそういう好み知らないし、私個人的にコーヒー牛乳嫌いだし後の二つは未知の領域過ぎて怖いしで、結局無難に普通の牛乳買って来たんだけど、これで良かった?」
「えっ? あ、ああ、うん。大丈夫。オレもコーヒー牛乳ちょっと苦手だし……」

少し後ろめたさを感じながら答えると、初音がじゃあ一緒だ、なんて言って無邪気に笑うのが見なくても解った。

「私、昔からコーヒー牛乳って何か苦手なの。甘いんだか苦いんだか、何だか中途半端な感じがして気持ち悪いんだよね。甘苦い、って言うのかなぁ」

初音がんー、と小さく声を出しながら言う言葉にへえと生返事を返して、とりあえず何か話題を変えようと思って、不意にディーノさんの事を思い出した。

「そ、そう言えばディーノさんは?」
「今リボーンと隣の部屋で卓球やってる。リボーンにそれも銭湯の醍醐味だって言われて、意気揚々とラケット手にとって楽しそうにしてたよ」

リボーンって相変わらず人を動かすのが上手いよねー。なんて言いながらまた牛乳を口にする彼女にそうだね、と苦笑いを返しておいた。
だって、多分、彼女の中でのあいつが人を動かしている筆頭が、きっとオレだ。
………ってあれ? 冷静に考えてみると、オレって実は男としてかなり情けない……?

「? ……どうかした? 綱吉」
「いや、何でもない……」

ちょっと本気で自分が男として情けなくなってきて落ち込んでいると、何でか初音がニヤニヤしながらこっちを見て来た。
………? 何だ?

「そう言えば、こうやって綱吉と話すのは久しぶりだねえ。イタリアでは色々ばたばたしてて結局連絡取り合えなかったし」
「ああ、確かにそうだね」

あくまでも世間話を装って言う初音に、だんだん彼女が何を言いたいのかが解って来た。

「ふふふ、綱吉は、私と逢えなくて寂しかった?」
「うん。寂しかった」
「え」

それ来た。
それにいつものように乗ってたまるかと間髪入れずに初音の目を真っすぐ見て答えると、初音はまさか肯定されるとは思わなかったみたいで、元々大きめな眼をさらに大きく見開いた。
その頬がかすかに赤く染まっているのに嬉しくなって、続けて彼女にずいっと詰め寄って言い募った。

「すぅっげえ寂しかったんだけど」
「え…あ…」
「初音は?」
「う………」
「初音は、オレと一緒にいれなくて、寂しくなかった?」

徐々に顔を赤く染めていく初音に気を良くして畳み掛けると、初音は遂に耳まで真っ赤になって、ぷいっとそっぽを向いた。
それでも、答えを促すように彼女の目を見てじっと待つと、初音はぎりぎり聞き取れるか否かくらいの音量で、小さく呟いた。

「さ…みし、かった…」
「ん、良い子」

彼女の丸っこい頭を撫でて笑って褒めてやると、初音は嬉しそうに、ほわっと小さく笑った。










今回の話を書き終えた上で、ちょっと綱吉とヒロインに言いたい事があります。
えー………。
一生やってろ! このバカップル!
いや、おまが言うなって話なんですけど、勢いで書いた文面を見てついそう思ってしまいました。それでも書き直さない私って……。

それにしてもどうしましょう…綱吉が完全に今回この人だあれ状態になってしまいました……。
しかも、本文の綱吉の「オレの事大事って言うんなら〜」のくだり、あれ絶対女側のセリフですよね……。
私の中の綱吉がどんどん乙女になっていく……orz
これは由々しき事態ですね(笑)

ですがこれからもうちの綱吉くんはこんな感じなので、何とぞどうもよろしくお願いします。






2011.2.19 更新
加筆 2011.10.4