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どうして私の先輩は、私にだけ冷たいんだろう、と思う。

カカシ先輩はかっこよくて、背も高くて他の女の子に大人気で、いつも優しいと評判だ。
アカデミーや待機室にいれば下忍や中忍の女の子からキャーキャーいわれているし、任務先に赴けば下は子供から上は年配の方までメロメロだ。
その子たちにはいつも愛想良く対応しているのに、私とは任務中笑顔をほとんど見せることもなければ、褒めてくれることも、優しくしてくれることもほとんどない。
まぁ年に何回かは機嫌がよくて、優しくしてくれたり、心配してくれたり、当然任務で私の身に危険が迫れば助けてくれたりすることはあって、その時の嬉しさと言ったら言葉に言い表せないほどだ。
周りの女の子達が、先輩がカッコ良くていいなぁ(カナずるい、なんであんただけ)、なんて遠回しの圧力をかけてくるが、先輩がかっこよくて得だな、なんて思うのはその時くらいだろう。

こんな風になってしまったのは、いつからなのかよく覚えていない。でも、なんとなくずっとこんな扱いだったような気もするが、ある日を境にさらに扱いが荒くなった気もする。

心当たりがあるとすれば、いつだったか、単純に後輩として少し仲良くなりたくて飲みに誘ったときに、酔ってカカシ先輩のことをカッコいいカッコいいと冷やかした件だ。
あの時は確か、私の賞賛に対してはいはい、と適当にあしらわれるだけだったが、もしや好意があると思われて拒絶されているのではないかと後悔している。
でも、そんなの好きって言ったわけでもないし、私のことが嫌いでも仕事上でそんなに意地悪しなくってもいいじゃない。
付き合ってって迫ってるわけでも、しつこくベタベタしてるわけでもないんだからもっと後輩として線を引いて可愛がってくれてもいいじゃないって思うわけです。
もっと言うなら、休みの日だってカカシ先輩に呼び出されてパシられたり、行きたくない任務を代わりにやってあげたりすることだってあるんだから、もう少し、あとほんの少しでいいから私に優しくしてくれたっていいじゃない──
なんで私ばっかり。


そんなことを考えていた、初夏の昼下がり。
今日は一日オフだったが、例に漏れずカカシ先輩が早朝からわざわざ影分身を私の家まで遣わして、買い出しリストとお駄賃と合鍵を押し付けられおつかいをさせられていた。
職権濫用!コンプライアンス違反!と叫びたいところだが、所詮やってきたのは先輩の影分身なので、私が口を開く前にドロンされてしまった。これがいつもの流れである。
以前何回かこの件については直接本人に反論したが、どうせ暇なんだから買い物に行って運動しろとかなんとか酷いことを言われて突き返されてしまった。先輩は頭が良くて弁が立つから、直情型のタイプの私はまるで歯が立たない。
いつかギャフンと言わせてやろうと思って、おそらく半年くらい経っているだろうか。永遠にチャンスは来なさそうだ。


やっと買い出しが終わって、合鍵でカカシ先輩の家に買ったものをしまいにいくと、これからさらに嫌なミッションが待っている。
カカシ先輩に鍵を返しに行かなければならないのだ。
どうせ毎週私に買い出しに行かせるのなら、いっそ私に預けたままにしてくれればいいのに、ダメだと言って絶対に取り上げられてしまう。
何がめんどくさいって、毎回どこにいるかわからない先輩を探し出さなければならないのだ。
敵を探すトレーニングだと思え、とか適当なこと言っていつもどこに行くかは朝の段階では教えてくれない。
多分いつもどこに行くかなんて決めていないからだろうと私は踏んでいるが、本当にいい加減きちんと後輩扱いしてもらいたいものだ。


今日はどこにいるだろう──先週は確か公園にいるかと思ったら書店で本を見ていたので、今週は公園か、原っぱの木陰で先週買った本を読んでいるに違いない。
あぁ、あまりにパシられすぎて、見当までつくようになってしまった。可哀想な私。

とりあえず体力のあるうちに遠いところから探そうと、里の外れの草原へ足を運ぶと──いた。今日は一発だ。
しかし、本を読んでいる雰囲気ではなさそうだ。カカシ先輩は木陰に腰を下ろし、胡座をかいて何か複数の茶色いわたのような物体を触っている。その隣にはパックンがおすわりしている。

何を触っているんだろう──不思議に思ってそっと気配を消して近くの木の影から様子を伺っていると、へのへのもへじのちゃんちゃんこを纏った沢山の仔忍犬たちがカカシ先輩の周りでトタトタとじゃれあっていた。無論、先輩はニッコニコのデレデレである。見たことのない顔に、私は思わず吹き出しそうになる。
仔忍犬達は毛並みがふわふわすぎるせいか、ちゃんちゃんこの文字がほとんど埋もれている。まるでわたあめみたいだ。
私はカカシ先輩なんてどうでも良くなってきて、あの毛玉達を思いっきりもふもふしたい衝動にかられ、先輩の前に姿を現した。

「お疲れ様です、カカシ先輩」
「あー、終わったのね。今日はまた随分と見つけるの早かったじゃない」

パックンは、よ!と左前足を上げて私に可愛らしい肉球を向ける。

「お前またカカシにこき使われてたのか」
「あぁ、いや、そういうわけでは」

そうなんです、と言いたいところだが、機嫌を損ねないように濁す。
カカシ先輩の表情はまだ穏やかだ。私は今ならいける、と口火を切る。

「あの、先輩?お楽しみのところ申し訳ないんですけど、折り入ってご相談がありまして……」

私は両手を後ろに組み、カカシ先輩の眉毛の動き一つでも見逃さないようによーく注意して彼を捉える。

「ん?なんだー」
「その、仔忍犬ちゃんたちを触らせていただけないかなーと思いまして」

私は全意識を先輩の表情に集中させる。
表面上は柔らかい笑みを浮かべているが、何を言われるかわからない。私は背中の方にじっとりと汗をかくのを感じた。
その間も仔忍犬達はカカシ先輩の膝の上に乗ってコテンとしてお腹を上にしたり、仔犬同士で噛みつきあったりして私たちの空気感なんてお構いなしである。はぁ触りたい。
パックンも固唾を飲むようにして見守っていた。すると──

「いいよ」

あっさりカカシ先輩が一匹の仔忍犬を抱き上げ、はい、と私に差し出す。
パックンは大きく息をはいて、ホッとしたような表情をしていた。犬だけど。
私は喜びに打ち震えながら、そーっと一歩ずつカカシ先輩とかわいいかわいい毛玉のような仔犬ちゃんに歩み寄り、抱っこをさせてもらう。
小さなふわふわのおててにまぁるいお鼻、円な瞳。この世のものとは思えない可愛さだ。おまけに額のあたりを優しく撫でてやると、甘えるようなかわいい声で鳴くではないか。

「か、かわいい……!」

悶絶しそうなほど愛くるしく、私は夢中になって仔犬を愛でる。カカシ先輩のことなんてすっかり忘れていた。
それから、一匹を抱っこすると他の仔忍犬達も僕も僕も!いうようにカカシ先輩の膝の周りから私の足元までトテトテかけてきて甘えるように飛びついてくる。
あぁ、なんで幸せなんだ、溶けてしまいそうだ──仔犬のハーレムにうっとりしていると、いつの間にか隣にカカシ先輩が立っていた。
しかも、先ほどよりもにっこりと、貼り付けたような笑顔である。
まずい。

「よかったねー。満足した?」
「あ……あ、」

私はその笑顔を見て凍りつき、言葉も出ないまま抱いていた仔犬をカカシ先輩へ返す。
きっとこの顔は怒っている顔だ。
理由はひとつ、カカシ先輩より犬にモテてしまったからに決まってる。
私はこの場にいるのが怖くなって、「触らせていただいてありがとうございました!」とお辞儀をして、パックンにももう一度お礼をして仔忍犬達を踏まないように一目散で逃げ帰った。

なんで犬にモテたくらいでカカシさんはあんなに怖い顔するんだ、笑って怒るなんて卑怯だ、なんで私はこんなにカカシさんに買い物とか任務とかで尽くしているのに優しくしてもらえないんだ──走って帰る間、そんな考えがぐるぐると頭の中で回った。

息を切らしながら鍵をあけ、自宅の玄関に飛び込むと、私はある重要なことを忘れていたのに気づく。

──鍵を返し損ねた?!

あんなに勢いよく帰ってきたというのに、もう一度会いに行くなんて私には絶対できない。いやしたくない。
でも、今頃鍵を返さないで帰ったことに気づいているだろう。まずい、非常にまずい。
前に一度、反抗心で鍵を返さないで帰ったことがあったが、その後何故返さなかったのか、どこへ行っていたのかなどと散々尋問をされたのだ。そんなに気にするならそもそも合鍵を渡すなよと思うのだが、私の反論は聞いてもらえなかった。
あぁもういやだ、あの毛玉達にまた癒されたい──そう思ったその時、私は名案を思いつく。

一度靴を脱いで部屋に上がると、メモを取り出し、ペンでミニレターを書く。そしてそれを綺麗に折り畳み、クローゼットの中にあった大判のハンカチにくるむ。

「忍法、変化の術!」

さっきの毛玉犬に化けるのだ。
メモには、「カカシ先輩、鍵を返し忘れてすみませんでした。この子はわたあめです。少し預かって貰えないでしょうか」と書き綴った。
これで私は怒られない。完璧だ。

このままの姿ではカカシ先輩の家まで行くのに時間がかかるから、カカシ先輩の家で待って、直前に化けよう──
それから、犬に化けた私を回収する私が必要だ。

「忍法、影分身!」

影分身の私は家に置いていき、ある程度の時間になったら呼び戻す。どうだ、完璧だろう。
私は靴を履き直し、先ほどのメモを包んだハンカチを持ってカカシ先輩の家へ向かった。


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