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※このお話には一部軽微な流血シーンが含まれます。
苦手な方は閲覧なさらないことをお勧めします。


さて、どうしたものか── 一戦交え、休憩をとりながらオレは体育座りをしているカナを横目に考える。

とりあえず実戦形式で実力を測らせてもらったが、上忍として体術、忍術、そして戦略も申し分ない。
確かにここまでの実力を持ちながら性質変化を使えないのは勿体ないが、むしろなぜ使えないのかがひっかかる。チャクラコントロールだってかなり高いレベルまで達しているのに、だ。
攻撃が近距離に偏りすぎているため、このままでは戦場に出た時に苦戦するだろうから、やはりガイの言う通り修行はついてやったほうがいいことには間違いない。

「うーん……実力としては上忍として通用すると思うけど、なんで性質変化が使えないんだろうねぇ」
「性質変化を使おうとすると、なぜかチャクラがものすごく乱れるんです……コントロールがおかしくなって」
「ま、基本も実力も十分だし、時間はかかるが修行すればできるようになるだろ」

身体を動かして少しスッキリしたのか、カナのふて腐れ顔も随分マシになった。

「それにしても、今日は災難だったな」
「本当ですよ……ガイ先輩にはもう三週間も前から今日はデートだから、絶対に修行に呼びに来ないでくださいってずっとお願いしてたんですから……」

彼女は遠い目をして言った。
それだけお願いしておいて邪魔をするなんて、ガイのやつ、後輩のかわいさあまって邪魔をしに行ったんではないかと邪推してしまう。
年頃の娘を持つ父親みたいな気持ちになってしまったのだろうか。

「やっといい感じになれて、初めて遊びに行けたのに……しかももう彼は来週から他の国に留学しに行っちゃうし」
「留学?」
「彼は商い屋の息子なので、商学を他国に勉強しに行くんだそうです」
「跡取り息子か、玉の輿狙ってたってとこね」
「そんな!ステータスとかじゃなくて、優しくてスマートで思いやりのある彼が好きだったんです。ガイ先輩がものすごい突撃の仕方してきたんで、向こうも顔青ざめてましたから、もう無理でしょうけど……」

カナは膝に頭をつけ、落ち込む様子を見せる。
デートの相手が青ざめるなんて、一体どんな突撃の仕方をしたのだろうか。むしろ気になる気もするが、これ以上落ち込まれても困るので話題を変えることにした。

「そういえばそのチャクラ刀、なかなか渋いな」

彼女は背中に、チャクラ刀を担いでいた。しかし、先程の手合わせの際はその刀の柄に触れようともしていなかった。
忍が使う刀にしては長めで、柄の部分がだいぶくすんでいる。年代物のようだ。

「父の形見です。まだ使ったことはありません」

そういうと、ゆっくり彼女は顔をあげて刀を背中から下ろして「見ますか」とオレに手渡す。
そっと鞘から少し抜いて見ると、しっかりと手入れのされた、切れ味の良さそうな刃だった。

「こんないいもの、使えばいいじゃない。せっかくだし」
「この刀は雷の性質変化と組み合わせてこそ最大限の能力を発揮するらしいんです。だから、なんとなく使えなくて」

彼女は遠くを見つめて言った。
彼女の気持ちがわかるような気がした。
オレも、いつだか父さんの形見のチャクラ刀を心の拠り所みたいに、お守りみたいに大切に持ち歩いていたっけ。
第一印象こそ悪かったが、そこそこ共通点があるとわかると人間というのは不思議なもので、親近感を感じてしまう。

「オレも父さんの形見がチャクラ刀でね。ガキの頃は背中に背負って毎日修行に励んだ。キミを見てたらなんだか、懐かしい気持ちになったよ」

オレはそう、彼女の気持ちに寄り添うように語りかけると、カナはようやくこちらへ視線を向ける。そして、心なしか表情が少しだけ柔らかくなった気がした。

「今はもう身につけてないんですか?」
「オレの人生においての一番影響を与えた戦いの途中で折れたよ。今は大切にとっておいてある」
「そんな……」
「でも、オレは生きてるわけだから、形見がお守りになったとも考えられるでしょ?」

もちろん、形見がすべて守ってくれたわけではない。
あの時の、友や仲間のたくさんの犠牲があって今のオレが生かされていることはわかっている。
けれど、彼女にお守りとして持つだけではなくて、それを使って自らの命を、仲間を守ってほしいと願ってそう言ったのだった。
カナは「そうですね」と刀に視線を落とし、呟く。

「早く父のように使いこなせるよう頑張ります」

そして、はっきりと言い切った彼女の瞳は、まっすぐで強い意志を感じられた。最初見た時のふて腐れ顔とは別人のような、精悍な顔つきだった。



「それじゃあ早速、性質変化の修行に取り掛かる」

休憩を終えると、オレたちは演習場の開けた場所に、すこし離れて対面になって立ち、改めて修行を開始する。
彼女は真剣な面持ちでオレをじっと見つめ、話に耳を傾けているようだった。

「ちなみに、今まで性質変化の修行経験はゼロではないよな?」
「はい、一応ガイ先輩にも教わったり、自主練としてやってきてはいます。少しだけできる時もありますが、ほとんどはやろうとしても上手くいきません」
「つまりは言ってた通り、性質変化の時の均一なチャクラコントロールが苦手なわけだな」
「はい……」
「それなら、そこさえ克服すればすぐに性質変化はマスターできるはずだ」

さすが上忍にあがれるだけあって、基礎がしっかりしているから話が早い。案外早く修行が終わりそうだ。
オレは腰に下げているポーチから電球を一つ取り出し、カナへポイと投げて手渡した。

「修行にはこの電球を使う。こいつを安定的に光らせられればほぼマスターだ」
「……雷イコール電気だから、電流を流すってことですか?」

彼女は両手で電球を受け取ると、不思議そうな顔をしてオレを見る。

「ご名答。まずはチャクラで回路をつくって、電球の中を通すイメージをしてみろ。上手く自分にチャクラ
が返ってくるまでだ」
「ただチャクラを流すだけでいいんですよね?」
「あぁ、まだ性質を変化させないからこの段階では明かりはつかなくていい。心配するな」

わかりました、とハキハキと返事をすると、カナは電球の口金から少しガラス部分の付け根のあたりを右の手で包むようにして握り、ゆっくりと目を閉じ集中を始めているようだった。
額当てをずらして写輪眼でチラッとチャクラの動きを見ると、ゆっくりチャクラが動き始め、口金のあたりからスッと中へ流れ込んでいるのがわかる。不均一ではない。
どうも普通にチャクラを扱う分には緻密なチャクラコントロールができても、性質変化をさせる時限定でコントロールがおかしくなっているようだ。
再度額当てを戻し、瞳を閉じてチャクラコントロールの乱れの原因になる様々な要因を考えてみる。
一番考えられるのは術者の実力不足。しかし彼女には当てはまりにくい。他に考えられるのは、なんらかの封印術にかかっているということだ。
しかしそんなことは──思案をしていると、突然パン!と何かの破裂音が聞こえた。

「なんだ?!」

目を開いて音のした方を見ると、彼女の手から電球が消えている。そして代わりに、拳の端からポタポタと赤黒い血が滴っているではないか。

「……あはは、すいません」

乾いた声で彼女が謝ると、やっとオレは事態を理解し、カナのもとへ駆け寄る。

「何やってんの?!怪我してるじゃないの!」
「ちょっとだけ流れが詰まってたんで、そこにチャクラと力を込めたらパリンって……」
「とりあえず修行は中止だ!病院行くぞ!」

普段から持ち歩いていた救急応急キットから清潔な布を取り出し、破片が手に食い込まないようそっと拳を包む。
気まずそうな表情で謝る彼女の傍について、二人で病院へ急いだ。

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