その日の授業中はずっと壁を見られなかった。
壁を見たら動悸がする。由来手は壁に犯されたのだ、と何回も思った。
壁を犯した?
わからない。
小さい頃読んだ漫画を思い出す。
ヒロインの顔を消ゴムで隠して身体だけ見たときみたいな興奮。
生きてないのに背徳感であの手の漫画は読まなくなった。
現実は生きにくい。
俺は相変わらず異常者で、由来手はいつも通りに優等生。
美人が好きなわけでも、嫌いなわけでも、女子が嫌なわけでも、男が好きなわけでもなく。
『人間なんだ』と感じたら、全部ががらがら崩れていく。
血が通ってないんだと思うと、逆にひどく安心した。
だけど。
由来手は、血が通ってるはずなのに、へんだ。
あんまり周りみたいに「生きてる」感じがしない。