もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

ワックスフラワー「可愛らしさ」



side:篤葉



「え?女の子が・・・?」
「長次と居たみたいだったぞ、何でいるのかわからないけど友達だって言ってたな!」


バレーボールを持って帰ってきた小平太がそういった
長次が、女の子と・・・
そういわれて、ふと思い出したのは、幼少の頃に会ったと話していた長次曰く、"朝顔の妖精"
朝顔の咲く時間に現れて、しぼむ頃には消えるのだという
私は少し考え、すっと小平太に視線をやる
小平太は心得たとばかりに頷いた


「会いに行くんだろう?私もついていくぞ」
「ありがとう、小平太」


案内する、と言っていじっていたバレーボールを置き、私の手を引っ張り立ち上がらせてくれた
もうそんなに過保護にしてもらわなくても大丈夫だというのに
私は小平太のそんな心遣いに嬉しく思いながらも、少し苦笑を浮かべて
楽しそうに笑う彼の姿を見ながら、小平太が嬉しいのなら、と結局許してしまうのだから大概だと思う


「ここだ、長次ー!はいるぞー!」


すぱーん!と勢いよく障子を開ければ、小平太越しに吃驚した表情の女の子と、長次の姿が見えた
私は小平太の影からお邪魔します、長次、と声をかけて部屋に入ると、障子を閉める


「・・・どうした、篤葉」
「長次が、お友達を連れてきてるって言うから見に来たの。その子?」
「あ・・・初めまして、青瀬朝花です」


戸惑いながら挨拶をしてくれた青瀬さんに、私は笑みをこぼした
私とは違う、まっさらな青瀬さん
長次がぽん、と頭に手を乗せて、吃驚したように長次を見つめた青瀬さん
その分かりやすい表情に、忍者ではないと私は確信を持った


「初めまして、朝日奈篤葉です。長次の幼馴染なの、仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「そう、なんですか・・・?長次くんの・・・」


ぱちくり、と音がつきそうなほどに瞬きをして
安心したように綻ばせた顔は、とても愛らしい
きっと知っている人が居ない状態で、緊張していたんだろう


「女の子同士、仲良くしてね」


こくん、と頷きながら、恐る恐ると言ったように手を差し出してきた彼女は、まるで妖精というよりも、震える小動物のよう
長次の横では安心していられるようだけれど、それがもっと広がればいい、と思いながら、私は差し出された手を取った
それだけで嬉しそうにする青瀬さんに、なお更強くそう思った





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