もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

合同実技授業 ろ






私とハチの番はまだ先で、目の前で行われる手合わせを3人と共に見ながら、アレだコレだと悪い点やら良い点やらを見つけていく
それも授業の一環であるし、自分は自分、他人は他人ではなく、他人の悪い部分が自分にだってある可能性は十分ある
悪いところの知っておいて損などないのだ


「次、不破雷蔵、尾浜勘右衛門!」
「お、雷蔵!がんばれ!」
「勘ちゃん、負けるなー!」


友人二人の試合に、三郎と兵助が声を上げた
先ほどの二人の試合で、兵助は三郎に負けたのがそれなりに悔しかったらしい
勘もそれが分かっているのか、雷蔵と鉢屋は別物だから、と呟いているのが見えた
その言葉を聞き取っていた雷蔵は困ったように苦笑をこぼしている
勘の代わりに、私が軽く兵助の頭を叩いておいた


「二人の手合わせ、始まるぜ」


今まで蚊帳の外だったハチが私たちにそう声をかけると、それまで騒いでいた形を潜め、雷蔵と勘に向き直る

始めの合図があっても二人は直ぐには仕掛けず、様子をうかがっていたが、先に仕掛けたのは雷蔵だった
軽く地を蹴ると、手裏剣を投げる
しかしその軌道は勘にあたるかあたらないかのぎりぎりで
勘は少しだけ位置をずらすとお返しとばかりに万力鎖を投げる
雷蔵が飛んできた鎖をクナイで弾いて軌道を変えると、そのまま勘に仕掛けるべく距離を詰める
けれど雷蔵は唐突に横に跳んだ
それまで彼の居た場所に突き刺さったのは勘の鎖の先に着いた分銅
勘は下がりながら鎖を引っ張り回収する


「遥人はどっちが勝つと思う?」
「そうだな・・・勘が勝つと思うよ」


勘と雷蔵の攻防を見ながら聞いてきた兵助へ答えを返してすぐに、勘の懐に入ろうとした雷蔵のクナイが弾かれ、勘の手刀が雷蔵の首もと、皮膚に触れるぎりぎりで止まった


「尾浜勘右衛門の勝ち!」


木下先生の判定を告げる声に、2人は一礼すると、こちらへ歩いてきた
2人にお疲れ様と声を掛ける


「惜しかったな、雷蔵」
「勘右衛門、万力鎖だから体術苦手なのかと思ったんだ」
「勘ちゃんは別に苦手な訳じゃないからなぁ」


雷蔵が反省したように言えば、兵助が苦笑して返した
兵助の言うとおり、勘は万力鎖という武器を扱うが故に、接近が得意じゃないと思われても仕方がないのだ
しかし本人は体術が苦手なわけでもなんでもなく、むしろ苦手か得意かの2択では得意に分類されるのだ


「敵を軽んずべからず、だよー」
「うん、次は気をつけるよ」


だから負けないよ、と笑う雷蔵と、次も負けないよ、と笑う勘に、私は2人とも頑張れ、と声を掛けたのだった




合同実技授業 ろ








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