もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

合同実技授業 は






合同実技授業の順番待ちも終盤となり、いよいよ私とハチの手合わせの順番が回ってきた
名前を呼ばれて、互いに向き合えば、ハチはにかっと笑う


「お手柔らかに、ハチ」
「こちらこそ、お手柔らかに頼むぜ、遥人」


言葉だけならばただの戯れのようだ
けれど対峙する私たちの目は、どちらも負けるつもりは無いと思っていることが見て取れるだろう
ハチの強みは、生物委員で鍛えられたその肉体にある
筋肉の付いた彼の身体はがっしりとして、多少のことじゃびくともしないだろう
対して私は筋肉がつきにくい身体をしている
もちろん、一般人に比べれば相応の努力はしているから筋肉はついている
だが、ハチと比べればその差は歴然
ならばなにで補うのか、それは既に分かっていた
"技術"だ

はじめの合図を受けて、先手必勝とばかりに距離を詰めて来るハチ
私はハチの拳を受け流し、そのまま引き寄せて体制を崩そうとする
だが、ハチは素直に体勢を崩すことはなく、逆に引っ張った力をどうにか利用しようとした
そのまま居れば一撃食らうと判断し、私は大きく後ろに飛びながら手裏剣を飛ばす
体制が万全とは言い難かったハチは、避けるものの完璧にとは行かず、その肌に軽い傷を負わせる
真正面から距離を詰めてきたハチに、短期で決着をつけようとしているのがわかった
まぁ、それは私も変わらないが

けれど真正面から迎え撃っても負けるに決まっている
私はハチの攻撃をしゃがんで避けると、膝裏に衝撃を与える
がくんと体勢を崩したハチは慌てて体勢を立て直そうとするが、体が自由に動かないはずだ
なぜなら先ほどの手裏剣に遅効性のしびれ薬が塗ってあったから
力勝負で負ける私はそういう小細工をしないと簡単には勝てないのだ
まして、私は保健委員
薬には普段から触れているし、治療の為には、その原因を知らなければならない
ゆえに保健委員は毒に関して深い知識を持つようになるのだ

思いっきりハチの鳩尾に拳を入れると、しびれ薬で自由のきかないハチはもろに衝撃を受ける
その様子を見て、木下先生が判定を下した





ハチを回収して、4人の元に戻れば、お疲れと声を掛けられた
私はそれにありがとうと返して、ハチを座らせる


「鉄扇使わなかったんだな」
「遥人、鉄扇なんてもってたのか」


先日見せた鉄扇が気になったのか、兵助が話題に出せば、三郎が少し嫌そうな顔をする


「武器を持った人だったら使ったんだが、ハチだったからな・・・」


対体術のみの人とで鉄扇を使うのは判断に難しい、と答えれば、あぁ、と納得した声が聞こえた
授業はあくまでも授業、動けなくすることが目的でも、殺すことが目的でもない
そんな中で、身一つの相手に鉄扇なんて、危なくて仕方がない


「しびれ薬だよね、保健委員らしいや」


くすくすと笑う雷蔵に、ハチは微妙な顔をした
どうやら薬は反則だ!といいたいらしい
まあ、薬を使うなんて私くらいしか居ないだろうな
でも、武器の使用に制限はない


「使った手裏剣は八方手裏剣だったろう、八方手裏剣は毒などが塗られていることが多いって、習ったはずだ。それを避けられなかったのはハチだし、自業自得だ」
「とか言って、ハチが避けられないようにしたのは遥人だろ」
「当たり前なことを言うな・・・」


ろ組で勝ったのが一人だけだったからか、ちょっと不満そうな三郎に、私は呆れたように返した




合同実技授業 は







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