もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

動物脱走プチ事件








からころと飴玉を転がしながら、私は長屋への廊下を歩いていた
昨日用具の先輩に貰った飴玉は紅くて、生前弟についていた物の怪の目のようで綺麗だった
もちろん、空を凝縮したような青も好きだし、森を閉じ込めたかのような緑も好きだ
つまるところ、全部の色が好きなのだけれど


「あ、遥人」
「ん・・・勘か、どうしたの?」


私を見てふにゃんと笑った勘を一つ撫でて、そういえば、勘はえーとねとこぼす

話によれば、どうやらハチが生物委員の檻を間違えて開けたままにしてしまい、中に居た動物を逃がしてしまったのだそうだ
幸いにして、危ないものは居ないが、それでも少しばかり多いその量は大変なのだという


「そっか・・・分かった、私も手伝う」
「本当?良かったー、助かるよ」


安心したようにそういって、飼育小屋に居るだろうハチをたずねてくれといわれ、勘はまた逃げた動物達を連れ戻すべく歩き出した
私は一つ考えて、ピーっと聞こえない指笛を鳴らす
いわゆる、犬笛だ
一度だけではなく、一定の間隔で刻み、時に間隔をずらす

かさりと草が揺れた
それでも私は休まず指笛を鳴らし続けると、出てきた動物・・・ウサギや犬など多くの動物たちがちょこちょこと足の周りを動き回る
私はそれらを引き連れると、飼育小屋へ向かった





―――――





ハチ、と呼ぶ遥人の声がして、振り向けば俺はぎょっと目を見開いた
それはオレと居た先輩も同じで、遥人の姿を見て驚いている


「遥人・・・そいつら・・・」
「あぁ、生物委員の子たちだろう?」


つれてきた、となんでもなく言うその表情は、いつもあまり変わらないのだが、今日もやはりあまり変わらず
何でもなさそうなその表情に、その異様さをどうやら気がついていないらしい


「な、なんで御門くんはそんなに簡単に見つけてるんだ・・・?」
「・・・あぁ」


先輩が聞けば、気がついたように苦笑する
といっても、きっと一緒に居るオレだから苦笑したって分かるのであって、先輩には表情が変わったってわかんねーかもしれねーけど


「犬笛です、その高さを変えてやれば、犬だけじゃなくていろんな動物に聞こえるので」


それで集めてみましたと何でもなさそうに言う遥人だが、そんなに簡単にいくようなものなのだろうか?
オレはバカだってよく言われてるし、それはオレも自覚があるからわかんねえけど・・・
先輩が動揺しているから、普通じゃないんだろうなーとは思う
でも、遥人だし、できてもおかしくねえよな


「やっぱ遥人ってすげーな!」
「・・・俺はそれで御門くんのしたことを納得できる竹谷が凄いと思うよ・・・」


はは、と苦笑いをする先輩
よくわかんないがありがとうございますと言えば、あんまり褒めてないと思うよ、それ、と遥人が突っ込んできた
あれ、そうなのか?と遥人に聞けば、私の感覚が間違っていないならね、と何でもなさそうにそう返すので、そっかーと一言返して終わった


「・・・とりあえず、竹谷が頼んでくれた尾浜くんが帰ってきたら、解散しようか」
「はいっ」


先輩がちょっと疲れたようにそういって、オレは元気よく返事をすると、おーい、という勘右衛門の声が聞こえてきた
オレは勘右衛門に大きく手を振って、こっちに呼んだ





動物脱走プチ事件









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