もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

だって君のせいだもの







最近兵助の機嫌が悪い
理由は分かってるけど、おれにはどうしようもない分たちわるいんだよねぇ
いらいらとする兵助を見ながら、おれは一つ小さくため息をついた
そのとき、入るぞ、と声が聞こえた
そして戸がひかれて見えた顔は遥人


「・・・?兵助、機嫌が悪そうだけれど、何かあったのか?」


首をかしげながらそういう遥人の姿に、おれは助かったーと内心で安心した
だって兵助のいらいらの原因は遥人だからだ
最近、遥人は入学前に会って一緒に来たのだという一年生の綾部と仲が良くて、おれや兵助と居る回数が少し減ったから
兵助はそれが気に入らなくて、でもどうしたらいいか分からず機嫌が悪くなってたんだよね
遥人がこないとどうしようもないから、おれにはどうしようもできないし


「・・・・・・」


ふいっと遥人から顔をそむけてしまった兵助に、遥人が分かりにくいけど困った顔をする
最初に比べて、遥人の表情もわかるようになったなぁ
おれは苦笑して、遥人に理由を話す


「兵助はね、遥人が構ってくれる回数が減ったからへそ曲げてるんだよ」
「・・・・・・そうなのか?」


どことなくきょとりとした表情を変えた遥人
兵助がこっちを見て勘ちゃん!と大きな声を出しておれの言葉をさえぎろうとするが、それは遅くて
遥人はじっと兵助を見つめた
そんな遥人に、兵助は少し身じろぎする


「勘、兵助、二人さえ良ければ、今日はここに泊まってもいいか?」
「うん?おれは大歓迎ー」


少し考えてから遥人がいった言葉は少々意外だった
要するにお泊りらしいけれど、そんなこと全然やってなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか?
とりあえず、兵助の機嫌を直そうという意思はあるみたい
兵助は少しだけ顔を赤くして、勘ちゃんがいいなら別に・・・と呟くように言った
そんな兵助を見て、おれはにこーっと笑い、遥人も笑みを浮かべた




―――――





勘の言葉に、私はきょとりとした
兵助が機嫌の悪い理由が、私だなんて、なんだか在りし日の弟の姿を見ているようだ
あの子も、幼い頃じい様に構われていた私を見て、じい様に八つ当たりをしていた
そのときは、控えていた物の怪が教えてくれたけれど
確かそのときは、じい様が私を構いまくって私が弟のところに行かなかったから、だった気がする
その頃を思い出し、私はそのときに控えていた物の怪に教わった機嫌の直し方を兵助にもやってみることにした


「勘、兵助、二人さえ良ければ、今日はここに泊まってもいいか?」


あの頃は性別などあまり関係なかったから、一緒に朝からずっと、それこそ次の朝まで一緒に居て直したものだ
今は別に性別なんて同じなのだから、あの頃以上に気にする必要なんてないだろう
勘はにこりと笑って歓迎してくれたけれど、肝心の兵助はどうなのだろうか
じーっと見ていると、ふいっと視線を外して、呟くように勘ちゃんがいいなら別に・・・と許してくれた
私は笑みを浮かべると、兵助にありがとうと言って、二人を誘ってご飯に行くことにした
これで、明日には機嫌が直っているといいんだけど、な




だって君のせいだもの







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