もう一度だけ 名前を呼んで | ナノ

道を歩けば面倒にあたる







新学期の始まる一日前
私と半助さんの住む家は学園から少々離れているため、早めに出ようと既に家を後にしていた
去年の今頃は、伊作先輩と共にこの道を歩いたものだけれど
そこまで思ってちらりと半助さんを盗み見る
そして伊作先輩の不運を思い出す
物取りに遭ったことは、自分でも不運なことだったと思うけれど、そこで伊作先輩に会ったということは、少なからず彼の不運が引き寄せたことなのだろうかと思ってしまうのは・・・一年生のときの経験からなのだろうか
それに引き換え、半助さんとともにいるのは、不運に見舞われることもなく、普通に学園に着きそうだと日を見て予想する
しかしながら、そこは私の保健委員が故の本質か、それともたまたまか、何かに巻き込まれるのはお約束なのだ


「あ、半助さん」
「ん?どうした、遥人」
「あれ」


私が指さしたその先
そこにはうずくまる子どもの姿
子ども一人ならば、忍術学園に向かう子供か、あるいは迷子、あるいはただ捨てられただけか
いずれにせよ、半助さんも私も、困っている人を素通りできるほど出来た忍者では無い


「話しかけたほうが、いいんじゃないかと」
「そうだな・・・」


半助さんは、少し思考すると、話しかけてみるか、と口に出した
私は頷くと、たたっと足音を立ててその子どもに近寄った


「どうかしましたか」


そう話しかければ、ぱっと顔を上げる子ども
その顔は、幼いからか可愛らしく、女と言われても頷いてしまいそうだった
しかしながら、私はそのことよりも、別なことに少々驚く
それは、彼が顔をあげると同時に感じた気配
普通ではない狐の気配に、彼はいわゆる"狐憑き"ということだということが分かった


『ダメよ!人間なんて碌なもんじゃないわ!無視しなさいっ』


口を開こうとした彼に、狐が強くそういった
・・・しかし、私も彼がもし忍術学園の生徒になる子どもならば、ここに蹲らせておく訳にも行かない
狐を見る彼から、彼には狐が見えており、なおかつ困惑していることからどうしていいのか分かっていないと見受けられる
私は一つ考えると、剣印を結び、ナウマク・サマンダ・バザラダン・カンと口の中で紡ぐ
短い略式なので、効果も短いだろうが、きちんと話をさせるためだけならば問題ないだろう、たぶん


『っあ、陰陽師かっ』
「とりあえず話をさせて欲しいのだけれど」
『人間なんて信用できないわ!この子は人間に裏切られたのだから!』


ぎりぎりと強い力を受ける
相当人間に強い思い入れと憎しみがあるとおもわれる
困ったなーと思えば、後ろから半助さんが追いついてきた


「どうしたんだ、遥人」
「・・・ちょっと、この子妖怪が憑いてて・・・妖怪説得中です」


少し待っていてと半助さんに言えば、陰陽師だったのか・・・と呟くのが聞こえた
とりあえずそれは後で説明をするとして、私は平行線を辿るこの狐との会話に小さく眉をひそめた


『ただいま遥人〜!・・・・・・あれ、由(ゆい)?』
『あ、兄上っ?何故人間などに・・・!』


遊びに行くとどこかに行っていた蓮が帰ってきて、すぐにきょとりと首をかしげた
そして、目の前の狐・・・由という狐と蓮は、どうやら兄弟らしい
私は一つため息をついて、既にもう楯突く様子もなく、虚を突かれてしまった由という狐の術を解いた





道を歩けば面倒にあたる






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