狐と子どもと陰陽師 強い力に、右手の指先がすこし裂けてしまったけれど、仕方ないと、放置することにする 後で藍に怒られそうだけれど 『ねぇ、由、なんで憑いてるの?』 『兄上こそ、なぜ・・・』 「話すのは構わないけれど、道中にしてくれ・・・」 蓮と由の会話が、長い物になりそうだと思った私は、こめかみを押さえながら2人に言うと、放置されていた子どもにちかより、手をさしのべた 「私は御門遥人、忍術学園の2年生になる、君の名前は?」 「僕、綾部喜八郎です」 「綾部か、よろしく」 自己紹介をして立ち上がらせ、半助さんのもとに向かう なかなか着いてこない由に、蓮は一つしっぽを振って催促した 「半助さん、この子も忍術学園の子みたいで」 「じゃあ、一緒に行くか」 笑ってそういった半助さんに、綾部はこくんと頷いた 私はしぶしぶついてくる由と、そんな由を引く蓮をちらりと見てから、歩き出した 「それで、結局遥人は陰陽師なのかい?」 「御門は元々古くから続く陰陽師の家系で、私はその跡継ぎでした」 それでも、私自身がこの時代で幼い頃から教えられていた陰陽術は決して多いとはいえなかったけれど その分の知識はすべて、遥か時を越えた昔の世に、祖父の蔵書で学んだもので補えた そこまでは、言わなかったけれど しかし陰陽師の家系であったことを言えば、それで納得してもらえたのか、そうなのか、と一言だけ返して半助さんは話を終わらせてくれた まあ、あの頃の私はそれこそあまり良い時期とはいえなかったし、あまり思い出させたくないという半助さんの配慮なのだろう 「御門先輩は、陰陽師で、いろんなものを祓えるんですか?」 「名前でいい、綾部。それと、すべて出来るかといわれたらそうではないけれど、一応それが生業の家だから、出来なければいけない立場ではあった」 そこまで話して、ふと考える 綾部は"見える"のだろう ならば、食べられる可能性も強いということ 由が守っていたとは言え、生まれてからずっととは考えにくい 「綾部、最初から由見たいなのが見えていたのか?」 そう聞けば、ふるふると首を横に振って否定された そして、見えるようになったのは由が来てからだという ならば、何らかの要員によって、本来ならば見えない人が見えるようになるということなのだろうか しかし今何も分からない状態で考えても考えが出ることではない 「とりあえず、急ごう、あまりのんびりしていると間に合わなくなるぞ?」 「あ、ごめんなさい」 「いいや、気にするな。さあ、いこうか」 そういって、半助さんと共に、私は綾部の手を引いて歩き出した 今からならば、日が落ちる頃には忍術学園につきそうだ なんだか伊作先輩と共に忍術学園に向かったときと同じくらいになりそうだなとも思う ・・・そういえば、伊作先輩はちゃんと学園に着いたのだろうか いつもの不運を見ていると、とてもではないけれど心配になってくるのだけれど・・・ ふと頭の片隅でそんなことを思ったけれど、つかなければつかないで先生方が何かしらの働きかけをするだろうと思い直して、とりあえず私自身は忍術学園に着くことだけを気にすることにした 由は未だ機嫌が少々悪いままで、話も聞けそうにないことだし そちらも、忍術学園についてからだなと思い、内心小さくため息をついた 狐と子どもと陰陽師 → 戻 |