Novel - Vida | Kerry

5世紀分の隠し事があるんだ



「ヤノジュン今日彼女きてんの?」
「…きてるけど」

最後の夏大の4回戦、狭山高校との試合は8-1の快勝だった。本日3打点の大活躍だったヤノジュンの彼女は今日もスタンドから声援を送っていたらしい。まったくうらやましい。

「いいな、可愛い彼女に応援してもらえて」
「その気になれば公だってすぐ出来んだろ」

「その気があればだけどな」
お見通しだ、と言わんばかりにヤノジュンが続ける。あー、まだ引きずってることバレてるわけね。普段はいいやつだし、多分チームじゃ一番仲良いけど、勘がよすぎてたまに嫌んなる。人の傷口に塩を塗るなよ。

中3の時、俺にも彼女がいた。1年生の頃からずっと好きだったから、告白して付き合えることになった時は本当に嬉しかった。名前はそんなに目立つタイプではなかったけれどいっつも笑ってて一生懸命で俺にはもったいないくらい優しくて可愛い女の子だった。

俺が野球ばっかりで全然構ってあげられなくても「気にしないで」と笑ってくれてた。勝手に美丞にいくことを決めたときも「応援行くね」なんて言ってくれた。たまに一緒に帰れば照れくさくて目も合わせられない俺を怒ったりしないでずっと隣にいてくれた。

別れたのは高2の春。高校が別になってめっきり顔を合わせる機会が減って、最後に連絡したのがいつだったかはっきり思い出せなくなった頃だった。

「公くんが私のことどう思ってるのか、分からないよ」

そう呟いた名前は泣いていた。その顔をみてようやく俺はことの重大さに気が付いた。大好きだった。その気持ちに嘘はない。告白したあの日から何も変わらない。

そんなこと、わざわざ口に出して言わなくたって伝わっている気がしてた。でも全然だめだった。いま思えば当たり前みたいに隣にいて「好きだよ」なんて笑ってくれてる名前に甘えて伝える努力すら怠ってた。よくよく思い返してみれば「好きだ」と口にしたのは告白した日だけだった。

ヤノジュンと彼女も中3から付き合ってる。俺達と同じ時期に付き合い始めて、同じ練習をこなしてても別れず上手くやってるヤノジュン達をうらやましく思った。

俺もヤノジュンと同じように振る舞えていれば。立ち去る名前をあの時追いかけていれば。好きだと言ってやれば。もっと名前のことを大切にしていれば。今も隣にいてくれてたんだろうか、なんて。

「俺ちょっと行ってくるわ。西浦の試合までには戻る」
「あー、はいはい。いってら」

誰よりも早くポロシャツに着替えたヤノジュンが彼女の元へ向かうのを見送る。ほんとあいつ彼女大好きな。戻ってきたらからかってやろう。

そう思いながら自販機のある通路へ向かっていたその時だった。見覚えのある黒髪が視界に飛び込んできた。
そんな、まさか。あいつがここにいるわけない。でもあれは間違いない。髪が伸びて少し大人っぽくなっていてもすぐに分かる。

「名前」
「え、公くん?」

明らかに焦ったような顔をした名前が逃げるようにその場を去ろうとするのを阻むように手を掴んだ。

「公くん、離して」
「なんでここにいんの?」
「弟の試合の応援にきたの」
「高校生の弟なんていねーだろ」
「…うん」
「俺バカだから、まだ好きでいてくれてんのかもって期待しちゃうんだけど」

困ったように眉を下げて俺を見上げる名前がゆっくりと口を開く。

「ほんとはね、公くんの試合観に来たの」
「うん」
「別れてからもずっと公くんのこと好きで、忘れられなくて…私から言い出したのに、今更だよね。ごめん」

彼女の口にしたその言葉が嬉しくて、名前の腕を引き寄せてそのまま抱きしめる。彼女がこんなに小さいなんて今まで知らなかった。力を込めたら折れそうなくらいか弱いのに一人で不安ばっか背負わせてごめん、隣にいてくれる存在の大きさになかなか気付けなくてごめん。
こんな俺のこと好きでいてくれてありがとう。

俺だって別れて一年以上経ってもお前のこと忘れらんなかったよ。ずっとそばにいてほしいなら、もっと大事にすればよかったって後悔しなかった日はなかったよ。なあ、聞いて。

「好きだよ」

0915 ♪ クリープハイプ / リグレット
title : へそ


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