自分の為に生きたいのであなたの為に死にます



今回は中三だった。

久しぶりに見つけた魔女の結界をくぐって最深部を目指す。誰かの笑い声がこびりつくこの感じ。ああ気持ち悪い。だからこんなとこ来たくなかったのに。太いヒールが極彩色の地面を叩く。こんなおしゃれ靴、数分歩いただけで靴擦れを起こすだろうに。これが魔法の力ってか。アホらし。

俄かに騒がしくなってきた辺りの使い魔たちが鬱陶しく飛び回る。久しぶりだし、ちょっとくらいいいか。左の腕を前に掲げた拍子に分厚い本が出現する。それを適当なページまでパラパラ捲って良さげなもんを物色。うん、これでいいや。

意味不明文字が本のページから抜け落ちてみるみる内に形を形成されていく。これなんだろ。狼? ま、いっか。即席使い魔の出来上がりーってね。文字が蠢いてもはや真っ黒の動物もどきたちが縦横無尽に魔女の使い魔に喰らいついていく。がぶがぶごっくん。わあ、相変わらず悲鳴も気持ち悪い。これは早く帰りたい。いつものことか。


「はいはいじゃんじゃんいってみよー」


左手の本を開きっ放しでたくさんの扉をくぐり抜け、ついに最深部に辿り着いた。ここまで何匹の狼さんが出てっただろう。予想以上に魔力を使ってしまったみたいだけど、まあ、大丈夫でしょう。おかげでちゃっちゃと大ボスのところまで来れたわけだし。

使い魔と比べると気持ち悪さも二乗な魔女の姿を見た瞬間に左手の本から大量の狼たちが走っていく。地味に逃げ惑う巨体を左右に揺らしながら誘導された場所に倒れる魔女。そこに向かって右手から出した本を思いっきり投げた。普通あんな古書店にもないような甘い装丁では空気抵抗ですぐバラバラになるだろうに、接着剤で悪戯されたみたいにあるページのみ開いた状態で飛んでいった。そして、ちょうど魔女の真上にきたところでそれは巨大な本になって落っこちた。魔女を下敷きにするように、どっすんと。あー、はいはい、魔法ってすごいね。もう突っ込まないぞー。とっくの昔に慣れたぞー。

ふぁんしーなかわいらしーい煙と効果音を立てながら本が消えて、そこからぺちゃんこの魔女の代わりに黒い塊が現れた。みなさんご存知の給料でごぜいやす。いやはやこれのために生きてるようなもんでっせ。ま、私って死んだようなもんだけどな! かっこわらいかっことじ。

もやもやーと霧が晴れて、普通の路地裏に大変身。というか逆戻り。うん、こっちのほうが落ち着くね。だって極彩色が一つもない。良きことかな補色オンリー。目に優しくてよろしいのう。

でも残念なことにあと一回は魔女退治に行かないといけないのさ。もうストックがカツカツだからね。なくなってから集めに行くようなギリギリの橋は渡りたくないからね。左中指の指輪をソウルジェムに戻したところで背後から人の気配が。なにやつじゃ。


「あなた、同じクラスの……」
「わあ」


このタイミングで来るとか遅すぎませんか黄色さん。

同じクラスにいて、とっくに魔法少女になっているのは知っていたけど。今後話しかける予定もなかったナイスバデー代表マミさん。これを期にお友達になることになりましたー、わーわーぱちぱち。やってもーた。


「ねえ、ちょっと手伝って欲しいことがあるのだけれど」
「えー、まだグリーフシードの手持ちあるもん」
「そんなこと言わないで、ね? あなたの好きなものなんだってご馳走するから」
「お、言ったね? 言質は取ったかんね?」
「もう、ふざけてる場合じゃないのよ? 相手はあのワルプルギスの夜なんだから」
「え"」


強がっているものの、不安ですって気持ちが見え見えなマミさんを無碍にできるほど無情じゃない。やっぱ友達になんてなるんじゃなかった。だってマミさん、もうひとりじゃないって泣いて喜んだくせに。


「一人で先逝っちゃうんだもんな」


こうして見滝原市の平和は二人の魔法少女の命と引き換えに守られたのであったー、めでたしめでたし。

あーあ、またやり直し。
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