あなたに似合いの私を殺めに



今回は髪がピンクだった。

気付いた瞬間に「ひっでぇ」と呟いていたのは、別に髪色に対しての偏見じゃない。変身した時の衣装が緑のせいでまるでピンクのお花ちゃんコスをしているみたいだったからだ。いや、だってみんな髪色に合わせたお似合いの衣装じゃん。ここまで髪色無視の衣装ないじゃん。なまじ元の黒髪に合わせたシックな緑色なせいで余計頭が浮いて見える。毎度毎度この衣装は変わらないし、武器も相変わらず分厚い本だ。


「か、鹿目のこと、前から可愛いと思ってたんだけどさ」


私は、今、ものすごい顔をしていると思う。

もちろん嬉しいとかそういう系統じゃない。めちゃくちゃ引いているって顔だ。今回の私は鹿目まどかの双子という立ち位置で、顔も鹿目まどかに似ている。ちょっと目が釣り目気味で鹿目(悪)って陰で言われてたことも知ってる。なにそれドラゴンボールのピッコロ大魔王かよ。片割れが神様になったところはまんまだから分からんでもないが。中学生男子は素直じゃないので鹿目(善)、つまりまどかのことを可愛いというヤツをロリコン扱いして蹴落とし合いしてるのも知ってる。まどかが裏ではそれなりにモテるのも、私こと鹿目(悪)が引き立て役になってるのも知ってる。ついでにほむほむさんがイライラしてんのもね。大変だね。


「鹿目が良かったらなんだけど、俺と付き合ってほし、」
「サヨナラ、中沢クン」


さーて魔女狩り魔女狩り。

私は何百回も隣の席になった中沢に永遠にサヨナラした。

だって中沢が告白してきたのは今回が初めてだ。そんで鹿目って苗字になったのも初めてで、つまりそういうことっしょ。なに、中沢ってまどかの顔好きだったん? 隣の毎朝喋るとっつきやすい女子が自分の好みド直球なキュートフェイスだったから告白してみっかー、みたいな? ザンネン魔法少女は恋に時間を割けないのですー! ざまぁ!


「はあ」


その日は何故だか魔力の無駄遣いをしてしまって、グリーフシードの消費と儲けがトントンになってしまった。……本当に、なんでだろ。


「あなた、本当に鹿目名前なの?」


あれれぇー、まどかのケツ追っかけるのに必死なほむほむさんじゃないですかぁー。


「逆に暁美さんの知ってる鹿目名前はどんなヤツなの。そこ教えてくんないとこっちの答えようなくね?」


……あの、対話を持ちかけた方が会話を放棄するってどういうことなんですかね。思いっきり眉間ギリギリに向けられた銃口にとりあえず両手を挙げた。つっても本はそのまんまだから、相手の首には牙を剥いたまま寸止めしてる魔女文字蛇さんがいるんだけどね。


「等価交換ってことで、そっちの目的を教えてくれたら言おっかな」


いや、知ってるけどね。こっちだけ答えるのも癪だから一応ね。


「答える義務はないわ」
「ええ? ちょっとコミュ障すぎじゃない? そんなだから美樹さんに誤解されるんだよ」


ほむほむさん今回沸点低めな感じですかね。ゴリッと押し付けられた銃口が痛い。蛇さんなんて牙向いてるだけで寸止めしてるのにこっちは肌からゼロミリじゃん。もう既にイーブンじゃないですコレ。


「あなたは、」
「ん?」
「鹿目名前は、美樹さやかのことを美樹さんとは呼ばなかった」
「あちゃー」


こっちの私って普通にさやかちゃん呼びしてたんだー、へぇー、知らんがな。


「で? 突然ポッと湧いた不確定要素がまどかのすぐ隣にいるのが気に食わない暁美さんは私にどうしてほしいの?」


ゴリッのお返しにギュッと蛇さんの熱い抱擁をお見舞いする。


「仮にもまどかの大好きな家族である鹿目名前に銃を向けて、尋問して、ついでに拷問かなんかもオマケしちゃって、無理くり聞き出した情報を引っ提げてどうしたい? 利用されるのなんて私は御免だし、死んでも嫌だし、それでついカッとなって殺しちゃったら困るのは暁美さんだよね? だってまどかは自分の大切な人のために自分を犠牲にできる超絶良い子だもん。復讐、ってほど生々しいことはないだろうけど、暁美さんと友達になることは一生ないだろうなー」


あ、怖〜い顔になった。でも知ってる。それ泣くのを我慢してる顔っしょ。俺は詳しいんだ。別の君と友達だったから。

この世界に私の知り合いはいない。隣の席の中沢も、同じクラスのマミさんも、妹の杏子も、友達のほむらちゃんも。そして、今回失敗したら双子のまどかもいなくなる。ママさんもパパさんもたつやも。同じ顔で同じ人で全く知らない別人と初めましてを繰り返す。初対面で馴れ馴れしく名前を呼びそうになるから、私は口に出す時はみんな名字で呼ぶようにした。中沢。巴さん。佐倉。暁美さん。できたら、鹿目さんとは呼びたくないな。あー、でもこのまま行くといつかは鹿目さんになる気もする。

私は詳しいんだ。何度もやってるからね。


「ねえ、取引しない?」
「取引?」
「私の目的は、とりあえずは現状維持。少なくとも家族には幸せでいてほしいからまどかに危害は及ばない。まあ、あんまり深く聞かないでほしいんだけど、とにかく何かヤバいことが起きたら協力してほしい」
「話が散文的で分かりにくいわ。ヤバいことって、なに」
「それは、暁美さんが一番よく知ってるんじゃない?」


まどかにそっくりな顔でまどかに良く似た笑い方をする。ごめんね、暁美さん。使えるものは何でも使う悪いヤツで。


「あなた、私のことを知っているの?」


眉間にシワを寄せて、ちょっと怯えた顔をするほむほむさん。うん、昔の名残を感じる。感じたところで悪いヤツの心には何とも響かない。


「いんや? ノートの貸し借りもしたことがない他人ですが?」


まあ、そういうことなんだよ。



「なんで、なんでっ、名前、」
「だ、まっ、ていたのって?」


雨が降っていた。

そりゃ、現実世界では一応未曽有の大災害ってことで話ができてるんだから雨も降るだろう。うん、でも、流石に見飽きたなあとは思う。いやあ、でも今回は頑張った方でしょ。だってワルプルさんに会えるのとか久々すぎて同窓会に来た気分。まあムカつくから何発か殴らせろって感じだけど。なにあれ。なんでまたパワーアップするかな。もうやってられないから代わりにほむほむさんに任せたわ。うん、あの子はストレス発散した方がいい。思いっきり殴ってくれるでしょう。


「なんで、私、相談してほしかった。私、名前の言うことなら、何だって信じたのに。なんで、魔法少女だったこと、言ってくれなかったの」


ああ、デジャヴ。また誰かの泣き顔を見ながら寝っ転がってる。一人で死ぬよりずっとあったかいのに、代わりにすごく困ってしまう。


「まどかは、みんなのことでいっぱいいっぱい考えて、頑張って、疲れたでしょ? もういいんだよ」


この子を置いていくんだなって、家族を、友達を、知り合いを失くした可哀想な子にしてしまうんだなって申し訳なさ。苦しい。考えて頑張って疲れたのは、こっちだって一緒なのに。


「もう、傷付かなくていいよ」


思ってもないことが勝手に口から出ていく。

家族を亡くすなんて消えない傷を背負わせてしまうことへの、ちょっとしたお詫びも入っていたのかも。私が知っているまどかとの最後のお別れ。


「まどか、変わらないままでいて、」


いたい。痛い痛い痛い。いや、なにこれ。ほんとムリっていうか。マジないわっていうか。魔力切れで痛覚遮断もできない。この感覚もそろそろ慣れてくれよ。たかが足一本消えた程度だろ。ああでも痛みに慣れたら死人一直線か。それはそれでヤバいなー。あーでも、そろそろ……。


「いや、いやだよ! 死なないで! 私を置いて行かないで!」



そろそろ、死にたいなあ。



「さよなら、鹿目さん」


あ、間違えた。

言い直そうとして、口が動かなくって、目の前が暗くなって。うわあ、またやり直しかあ。



***



「やっぱりね。君は暁美ほむらと同じくこの時間軸の人間じゃない。それどころかこの世界の人間でもない。世界越境、というのも少し違う。憑依、乗っ取り、強奪。どれも的を得ているし違うとも言える。君は死ぬたびに精神体になって世界を跨ぎ、並行世界の自分の精神を殺して入れ替わっていた。興味深いレアケースだ。何らかの目的のために何度も試行実験を繰り返し、そしてことごとく失敗している。すごいな。たった一人分のリソースでどれだけエントロピーを生み出したんだろう。回収スピードの問題さえクリアすれば君だけで僕たちのノルマを達成できるんじゃないかな。うん。そのためには君の目的は達成されてはならない。ずっと失敗し続ける必要がある。

ねえ、名字名前。君の本当の願いはなんだったんだい?」


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