ハートの色を聞かせてよ



前の席の青八木くんは、とても分かりやすい。

「腹が減った」「どうしよう、分からない」「部活! 部活!」「純太、まだかな」

昼休みが始まるまでの三十分間。突然先生に当てられてあたふたする仕草。最後の授業中に溢れ出る高揚感。手嶋くんを待つ時の期待と不安。

全部が全部、分かりやすいくらいに表情と仕草に現れている。こんなにも分かりやすい人は初めてかもしれない。だから私は、つい青八木くんに手を貸してしまうんだ。


「青八木くん、筆箱忘れちゃったの? キャラもので良かったら貸すけど」
「ありがとう名字! 名字はいいヤツだな!」
「どういたしまして」


面と向かって褒められると照れるものがある。けれど嫌じゃない。当たり前だよね。青八木くんは特に素直だから、何かをしてくれたらお礼を言うし、たまにお菓子もくれる。ちゃんと目を見て言葉を伝えてくる彼のほうが私なんかより断然にいいヤツだ。


「今度またなんか奢るから!」
「いいよ、そんなの。代わりに私が忘れた時に青八木くんが貸してくれればいいから」
「でも」
「いいっていいって」
「名字は本当にいいヤツだな」


困ったような、でも嬉しそうでもある声音でそう言った青八木くんは、そのすぐ後に手嶋くんに呼ばれて教室の入り口まで行ってしまった。その時靡いた髪の毛がちょっと傷んで見えたから、今度オススメのトリートメントを教えようかなあと頭の中でアレコレ考え始めた。

前の席の青八木くんは、世話を焼くのが楽しい弟みたいな子だ。



「しっかしすごいな。名字さん、だっけ」
「?」
「一言も喋ってない青八木と意思疎通できてんだもんな。オレだって半年はかかったのに」
「!」
「あはは、青八木は本当に名字さんが好きだな」
「!!」


青八木くん限定で無自覚に心が読めちゃう女の子

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