悠人くんといっしょ



「おねーさん、誰ですか?」


ウサ吉の世話をしにいつもの飼育小屋へと足を運んでいた名前は突然現れた見知らぬ少年に首を傾げた。


「み、御堂筋です?」

「みどーすじさん? すごい名前ですね」


突然現れて自分から尋ねたくせに返ってきた事に対しての反応は薄い。非常にマイペースな動きでちゃっかり隣にしゃがみこんだ彼は、名前の手の下のウサ吉を覗き込んで関心したように口笛を吹いた。そのアンニュイな瞳に反して清涼感すら漂わせる雰囲気を持った不思議さに既視感を覚えた。


「私たちって知り合いだったかな?」

「なにそれ。もしかしてナンパですか?」

「あれ、ナンパなのかなこれ?」

「オレはそう思ったけど」

「んん? じゃあ、そうなのかもね」

「ふぅん」


ボケボケとした言葉に返ってくるのはやっぱり気のない反応で。初対面同士の二人は一匹のうさぎを間に挟んでしばらく沈黙した。その間名前はじっと少年の顔を観察する。強気な眉毛。重めのタレ目に厚くセクシーな唇。口端を持ち上げて笑みを作ればもともとの存在感がさらに引き立てられる。こういうすごい顔立ちの人間が二人といるわけがないだろうに。


「そんなにジロジロ見られたら照れますよ」


さすがに見すぎたのか、少年は少しだけ弾んだ声で指摘する。笑みの形を残しつつ人差し指で頬をかいている様子は言うほど困っているようには見えなかった。本心が見えない子。それが名前が抱いた彼への印象だった。

指摘されたにも関わらず観察をやめない名前。その視線から逃げるように、少年はしゃがんでいた体勢から立ち上がってまた来た道を戻っていった。結局何をしに来たんだろう。あまりに突然来て突然去っていく彼の姿を思わず無言で見送ろうとした時、唐突にその背が名前の方に振り返った。


「オレ、初めてナンパされたから、ちょっとキュンとしました」


ありがとね、みどーすじさん。

ポケットから取り出したパワーバーを開け、ぱくりと咥えて今度こそ消えていく。その姿がとある人物と重なって、名前は大きく手を打った。


「新開さんのドッペルゲンガー……!」


明らかに不正解である。



「隼人くん、みどーすじさんって人知ってる?」

「御堂筋さん? 悠人、校舎じゃなくて外に見学しに行ったのか?」

「うん、ウサ吉を見に行こうと思って」

「へえ……それで名前がどうしたんだ?」

「ナンパされた」

「は?」

「ナンパされた」

「???」


両手で頬を挟んで嬉しそうな弟を、理解できないなと思った新開だった。



(初書き悠人くんでした。まだ原作で登場して日が浅いということで避けて通ってきた彼ですが、せっかくリクエストをいただいたので書いてみました。学校見学に来ていた悠人くんがウサ吉を見に来た、という大前提を明記していない不親切仕様です。ちなみに主人公は悠人くんの登場までの原作を読んでいません。完璧後付けな裏設定でした)
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