彼氏の泉田を弟に紹介するif



「名前ちゃん、なんやこの筋肉まつげくん」

「翔くん、人に指差しちゃだめだよー」

「質問に答えろやアホ」

「あう」


長い骨張った指から繰り出されたデコピンをおでこに受け、名前は情けない声と共に後退った。いつもの無表情に不機嫌さを上乗せした御堂筋が少しだけ本気を出したデコピンだ。痛くないはずもない。おでこを抑えて唸る彼女はいつものこととして、問題はその細い肩に手を乗せた男の存在だった。


「だ、大丈夫!? 御堂筋さん」

「うん、いつものことだから、だいじょーぶ」

「いつもって……」


名前に負けない長い睫毛を震わせて、泉田はキッと御堂筋の顔を睨み付けた。相手の方が10cm以上も上背があるはずなのに、彼の鍛え抜かれた筋肉が負けず劣らずの風格を醸し出している。


「アブ! 御堂筋くん、家族とはいえお姉さんに対して暴力を振るうのは感心しないな」

「カンシン? へえ、カンシン? キミィにカンシンされる必要はないからなァ。ボクと名前ちゃんのことで部外者が口出してくんなや」

「そうはいかないよ。僕は御堂筋さんとお付き合いしているんだ。恋人のことを思うなら、例え相手の家族にだろうと注意するさ」

「ファーー、なんやのそれ、キーモ!」

「キモくて結構。君とも長い付き合いになるんだ。お互い本音でぶつかろうじゃないか」

「キモキモ! 自分キモいこと言うなァ! まるで名前ちゃんと結婚するみたいな言い方やないの! ブフゥ! ありえんありえん!」

「そっ、それは……その、つもりだけど」

「あ"?」


グルン。ガシ。グチャ。

ニタニタと意地の悪い顔で笑っていた御堂筋が、一瞬で真顔になった。暗い、光の一切灯っていない黒目が思案するように一周したかと思うと、すぐにギラギラとした感情を剥き出しにして泉田の顔を掴んだ。


「よぉ聞こえんかったな。もういっぺん言うてみ」

「ぼふはみどうふひはんとへっほんしゅるふもいら! あぶ!」

「なんて言うとるのか、分からんなァ……」


ひょっとこかなんかのお面のような顔のまま、それでも相手から目を逸らさずに言い切った泉田。カチンと歯を鳴らして威嚇する御堂筋。一触即発の雰囲気の中、最初に口火を切ったのは果たして、


「ぷ、ふふ、あははははは!!」


両者の変顔に耐えられなかった名前であった。


「おも、泉田くん顔面白いっ、ふふ!」


途端に、張り詰めていた糸が緩まって泉田と御堂筋が肩を落とす。毒気を抜かれたというかなんというか。弟だろうが彼氏だろうがこの彼女を前にすれば押し並べて同じ、苦労人になってしまうものなのか。

御堂筋名前、恐ろしい人間である。


「空気読めやアホ」

「あう」


御堂筋の万感の思いが長い指に込められる。もう一度発射された今度のデコピンに対して、泉田は何も言わなかった。



(特に指定がなかったので勝手に彼氏役を泉田くんにお願いしました。泉田くんが主人公と結婚したら義弟の婿いびりと嫁の天然で大変なことになりそう。彼の胃がとても心配です)
← back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -