ほむら成代主とメフィストの初対面



目を覚ますとそこは病室だった。

アルコール消毒が行き届いた清潔なシーツ。たくさんのボタンとコードが絡まった機器を枕元に、落ち着かない柔らかさのベッドに預けた体が独りでに痙攣していく様子を他人事のように感じていた。

分からない。私は何故こんなところで寝ているの。

思い出せる記憶はごく僅か。魔獣との戦いに明け暮れる毎日に疲弊して、少しだけ、誰もいない自分の家で休息を取っていた。その覚えだけは確かにある。けれど今、置かれた状況は、あの、忘れたくても忘れられない悪夢を連想させる。

また、私はやり直しているというの。魔法少女としてまどかが願ったあの世界を無かったことにして。まどかが自らを犠牲にして成し得た奇跡を、私は否定してしまったというの。


「ぁ、ああ、」


手のひらに落ちたソウルジェムが急速に濁り穢れていく。駄目よ、今ここで絶望してしまったら、私は。


「まどか、まど、か、」


円環の理が存在しないこの世界で魔女になるわけにはいかない。私しか、まどかを救うことが出来ない。でも、でも、こんなのって、あんまりだわ。


「あ、ああ、あああああああああッ!!!」


真っ白なシーツを握り締めて、黒い髪で囲った視界を歪めて、私は泣き叫んだ。悲鳴を上げた。それはまどかの犠牲を無駄にしてしまった自責か、もう一度終わりのない迷路へ自ら足を踏み入れてしまった後悔か。どちらにしても変わらないのは、自分に対する絶望だった。


「いけませんな、美少女がそのように声を枯らしては」


頭を抱えて、己の絶望とまどかへの思いをせめぎ合わせていると、聞き慣れない声に耳元で囁かれる。涙で揺れる視界のまま顔を上げれば、あからさまな碧さの瞳とかち合った。酷い隈で縁どられた目だった。私がいた病院にこんな男はいなかった。それどころか、今まで生きてきた中でこんな不気味な人間に会った記憶は微塵もない。

咄嗟にベッドから飛び退いて窓際に体を寄せる。いつでもそこから逃げ出せるようにそうしたつもりだったけれど、それは私に冷静な思考を取り戻させる結果となった。

もし、もしも。これが私のリスタートだったなら、こんなに体が動くはずはない。まだ魔法を使っていない状態でメガネなしで視界が良好なはずもない。なら、これは私がループない。ちゃんと、あの子が世界を救った後の世界。魔女が消えて魔獣が生まれた世界。

じゃあ、この男はなんだというの。


「ここはどこ。あなたは何者で、私に何をしたの」

「おやおや。元気になったのはいいことですが、それはこちらが聞きたいことだ」


青白い顔の薄い唇が、裂けそうなほどに釣り上がる。こんなにも歪な笑みを浮かべる人間を、私は見たことがない。


「あなた、本当に人間……?」


動揺から咄嗟に変身してしまった私を、男は目を丸くして食い入るように観察し始める。少なくとも瞬き一つで服装が変わった人間に対して向ける眼差しでないことは分かった。そう、新しい玩具を見る目だ。インキュベーターがまどかを見つけた時の、あの感覚。やっぱりこの男は只者じゃない。


「それも含めて、我々は相互理解を深めるべきですね」


警戒心を静かに膨らませる私の様子も承知済みなのだろう。構うことなく手を取って、男は恭しく口づけを落とす。

魔女の口づけよりも禍々しく、不気味なそれを。



***



「一先ず話し合いは明日にして、今晩は医務室でゆっくり休んでください」

「……分かったわ」

「ということで、これが着替えです」

「この、柄は……?」

「今期一押しアニメ、マジカルプリンセス シルキー・ナナです☆」

「」



(主人公とメフィストの初対面ということで、こんな感じになりました。まどマギ本編のほむらちゃんって毎回同じところからリスタートしてるから病室にトラウマ持ってそうだなあと。あと十話のほむらちゃんの悲鳴が好きなので上げてもらいました。とことん暗い話にしかならないこのシリーズです。ランキングで必死に探していただけたそうで、書き手冥利に尽きます。リクエスト共々ありがとうございました)(シルキー・ナナという単語で反応した方は私とお友達)
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