後輩との会話を東堂に見られる



「巻島さんはすごい人ですッ!」


大きな丸メガネの下のこれまた大きな目がキラキラと輝いていて、背中がむず痒い気持ちになった。やめろそんな目で私を見るな。声を大にして言ってやりたいのは山々だけれど、こんな子犬みたいな顔をされては否定するのも気が引ける。

事の発端は何か、と聞かれればなんてことはない。ただ私が自分が思ったことを言ったら小野田のどっかのスイッチが入ったってだけ。いつものことだ、とかそんな風に思えるのはそれだけ私がそのスイッチを連打してきたってことだ。

小野田坂道ってヤツは人のいいところを見つけて本心から褒めちぎってくるから侮れない。私みたいな捻くれ者の天邪鬼には嬉しいよりも恥ずかしい寄りの気分に嫌でもなっちゃうからさ。いや本当やめてくださいお願いします。


「だから巻島さんは女性なのにカッコ良くて! ステキで! それから、」

「おーい小野田ァ。巻島さんが困ってるぞ」

「え! わ、すすすいません!」


よくやった手嶋! さすが空気の読める男手嶋!

身振り手振りでマシンガントークを繰り広げる小野田を一言二言で静めた手嶋がものすごく輝いて見えた。あとでなんか奢ってやろ。そういうつもりで肩を叩こうとした手だったのに、次の言葉で思いっきりパーマ頭の上に振り下ろすハメになった。


「いくら巻島さんがロードに乗っている時と降りた時のギャップが可愛いからって本人の前で言うことじゃないだろ」

「ショォオオオオオッ!!!!」


すぱーん。思いのほか小気味良い音が鳴ったけど今はどうでもいい。

ブルータスお前もか。

叫んだせいだけじゃない赤い顔と振り下ろしたままのポーズで肩で息をする。髪の隙間から見えた口元は吊り上っていたからこれは絶対に悪ふざけでしょ。先輩に向かって悪手嶋を発揮してどうするよコラ。気分はまさに腹心に裏切られたカエサルのそれだ。覚えてろよこの野郎。


「いてて、酷いですよ巻島さん」

「どっちがだよコラ! 金城に頼んでメニュー五倍にするぞ!」

「まま巻島さん落ち着いてっ」

「これが落ち着いてられっか!」


どさっ。

ん?

わーわー騒いでいた私たちの背後でなんか重い物が落ちる音がした。イライラしてたのと恥ずかしいのとで混乱していたからか、まだ赤みの引きそうにない顔のまま反射的に後ろを振り向いて、そしてすぐに後悔した。


「まぎぢゃんが……ッ!!」


なんでここにいるんだコイツは。

というかなんで泣きそうになってるんだコイツは。

いろいろと言ってやりたいことはあったけれど、なんだかこちらを差す指をブルブル震わせる東堂からとても嫌な予感がする。ということで、私は自分の感に従って両手で耳を塞ぐことにした。


「まぎぢゃんが後輩に口説かれでるぅうううううう!!!!」


とりあえず手嶋許さない。



(謎シチュエーションでしかも東堂の出番少なくてすいません。手嶋さんを出張らせすぎましたかね。こんな感じで大丈夫ですかね)
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