ほむら成代主がまどかと転生if



これは私にとっては二度目の生まれ変わり。三度目の人生。何度もの生を繰り返すこの状況は、彼女のためと同じ時を繰り返した昔の悪夢を思い起こさせる。けれど、それでも、私にとってこの新しい人生は確かに幸福なものだった。


「名前ちゃん!」

「まどか!」


夢見た光景だった。まどかがいる。すぐそこに、手の届く範囲に私のたったひとりの友達がいる。彼女もまた私と同じくあの世界の記憶を持って生まれ落ちた存在だった。魔法少女として、魔女と戦う運命を科せられた私たち。絶望と隣り合わせの日々を駆け抜けた私たち。けれど何故か、まどかはそのすべてを覚えてはいなかった。

魔法少女として私を魔女から救ってくれたまどか。ワルプルギスの夜に一人で立ち向かったまどか。戦いの末に絶望して魔女になったまどか。魔女になる前に殺されることを望んだまどか。魔法少女にならないまま傷ついていったまどか。誰かのために喉を枯らして泣くまどか。世界の礎として神になったまどか。

私はちゃんと覚えている。すべてを覚えている。けれどまどかには私と友達だったという記憶しか残っていなかった。魔法少女であった記憶も、あの絶望も彼女は知らない。

なんて都合が良いのだろう。私はあまりの幸運に驚いた。だって、まどかは何も傷ついていない。まっさらな彼女のまま私の隣に存在し続けている。これがどんなに欲しかった平穏か。笑って泣いて怒って悲しんで、私たちは生きてきた。人間として、一人の女の子としてまどかがいてくれる。今までも、これからも。これ以上の幸せは望まないから。だからこのまま毎日が変わらなく過ぎていってほしい。

そんな大それた願いを望んだこと自体が、そもそもの間違いだったのかもしれない。


「おや、あなたは」

「なに、してるの……?」


ぐったりとしたまどかを乗せた車が彼女の家の前に停まっている。その異様な色の高級車に身を滑らせようとしている男は見たことのない妙な出で立ちで、驚いて鞄を取り落とした私に対して厭らしい笑みを向けた。


「鹿目まどかのご友人、ですか。なるほど、今日は何か御用があったのですね」

「なんでまどかが、まどかをどこに連れて行くつもり?」

「それを聞いてどうするおつもりで? あなたには関係のないことですよ」

「関係なくなんてないわ」

「関係ないことなんです」


キッパリと言い切られたところで私の中に引くという選択肢はない。こちらを見下ろす表情も雰囲気も悪い方面で感情豊かなその男から、まったく違うはずのインキュベーターと同じ悪寒を感じたから。私は一歩だって引くことはできない。そんなこと、できるはずがない。


「今いるそこから抜け出して未知の世界に足を踏み入れる覚悟がないのなら、鹿目まどかのことは忘れなさい」


上等よ。


「私も連れて行きなさい」


遥か上にある不健康そうな垂れ目を見上げてしばらく。男はさらに気持ち悪いほど興味に塗れた顔で私に手を差し伸べた。


「私はメフィスト・フェレスと申します。あなたのお名前を伺っても?」

「暁美名前よ」

「名前さん、ですね。あなたの覚悟は分かりました。そこまで言うのなら私も鬼ではありません。あなたを我が屋敷にお連れしましょう」


楽しい楽しい、私の玩具箱に。



***



「あなたのご友人は、虚無界の神にその身を狙われているのです」


悪趣味な屋敷の悪趣味な部屋に通され、紅茶を差し出されても私は手を出す気力もなかった。この世界の裏側。悪魔なんて魔女とも魔獣とも違ったモノに狙われている世界にいる事実すら知らなかったのに、それ以上の危機的状況に陥っているなんて誰が想像できるだろうか。


「何故、そんなことに、」

「分かりません。ただ言えることは虚無界に存在する悪魔は物質界に存在する同等のものにしか憑依することができない。恐らく鹿目まどかは神に匹敵する存在として生まれ落ちてしまったのでしょう」


嗚呼、こんなことってないわ。

前世で絡まり縺れた因果律の糸が、円環の理に成り得るほどに強大な力が今にまで持ち越されるなんて。これじゃあ、私が今までやってきたことは本当にまどかを苦しめるだけじゃない。


「あなたは、私にどうしろって言うの? どうすれば、まどかを救うことが出来るの?」

「それはもちろん、」


擦り切れそうな決意の糸を必死に手繰り寄せながら私は目の前の男を睥睨する。けれど相手はそれ程度で怯むわけもなく。むしろ拍手喝采でも受けるかのように長い両腕を広げて高々と詠いあげた。


「我々と共に魔神を倒すこと! それ以外に鹿目まどかを救う術はないでしょう!」


私は繰り返すことでしか生きていけないのかしら。



(もしもほむら成代主がまどかと一緒に青祓の世界に転生したら。奇跡も魔法もない世界で生身でラスボスに立ち向かう無理ゲー仕様になりました。おかしいですね、もっとまどかと幸せにする予定だったのに。個人的には本編より面白いものが書けそうでとてもびっくりしました。素敵なリクエストありがとうございます)
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