お嬢様主はリコちゃん大好き



「名字の君は夏休みはどちらへバカンスに?」

「モナコ? 地中海かしら?」

「わたくしも気になりますわ!」


キラッキラした雰囲気で机の周りを取り囲んできた皆さんにどんな笑顔で返したのか、今になったら忘れちゃったけどさ。


「バカンス(笑)」


たぶん今みたいな微妙な顔してたんだろうな……。

キラキラ通り越してギラギラとした太陽の波打ち際。王室御用達ホテルもなければセレブリティ溢れるクルーザーがある訳もなく、むしろ活気すらあまり感じられない。ハリウッドスターばりのゴージャスなイケメンや金髪爆乳のモデルさんがオイルを塗っているわけもなく、近所の小学生がはしゃいでたりお腹のデップリしたお父さんがシートに寝そべっている。言うまでもなく、日本の寂れたビーチだ。これをバカンス(笑)と言わずになんと言えばいいのか。

いくらお願いしても譲ってくれなかった高級リムジンから足を出し、すかさず掲げられた日傘の影に身を滑らせて思う。こんな高待遇いらないわ。


「それでは名前様、くれぐれも約束をお忘れなく」

「分かったからもういいよスズキさん」

「スズコです。それでは短い休日をお楽しみくださいませ」


相変わらず鉄壁の鉄仮面な鈴木(スズコ)さんを乗せて去っていくリムジンを見送って、もろもろが入っているスーツケースを宿の人に渡した。ちょっと遅くなったかも。部屋に入って置いてあったボストンバッグを見て、急いで準備に取り掛かることにした。


「おお、やってるわね」


ことこと煮込まれている野菜の加減を竹串で確認していると、今まで待ち焦がれた愛しい声がすぐそばでかけられる。海の匂い。少しの汗とわずかに残った洗剤が優しく鼻先をくすぐった。


「あ……」

「久しぶりね名前」


記憶より短めの髪型。ちょっと大人っぽい笑い方。初めて会った時の純真無垢な子供はいなくなってしまったけど、彼女の本質は変わらずそのままだから。私を見つめる眼差しも何も変わらない。彼女の前髪を留めるピンは確かに私が日本に帰国した時に渡したもので、少しだけ傷ついているってことは今でも毎日大事に使ってくれているってことで。彼女の姿を見れば見るほど私の目頭は熱くなっていった。


「り、リコーーーーー!!!!!」

「きゃあああ!!」


持っていた竹串を投げ捨ててタンクトップ姿のリコに飛びつく。勢いつきすぎて一緒にバランスを崩して倒れてしまったのは仕方ない。


『カントクが女子に襲われてるーー!!』


後から続々と湧いて出てきた男どもは後回しで。


「リコ、お味噌汁の加減はどう?」

「ちょうどいいわよ」

「リコ、とんかつの味は? ちゃんと揚がってる?」

「サクサクよ。売り物みたいね」

「リコ、お肌ちょっと日焼けしてるね。ちゃんとオイル持ってきたからお風呂上がったら塗ろうね。あ、お風呂で一緒に洗いっこしよう! その時髪の毛のトリートメントもしようね!」

「あんたちょっと黙りなさいよッ! ほら、火神くんがおかわりしたそうよッ!」

「えー」

「えーじゃない! さっさと行く!」

「仕方ないなあ」


お風呂って言っただけで顔を真っ赤にしたリコがものすごく可愛い。めちゃくちゃ可愛い。昔よりしっかりものになったけど変わらず天使だよ。もうリコのお願いならなんでも聞いちゃうわ。


「ていうか、なんでタイガがいるの?」

「今さらかよッ!?」


いや、本当に気付かなかった。

体は大きくなったのに四年前と変わらず人体の不思議眉毛で思わず吹き出した。あ、怒ってる。こんなことで簡単に怒るのよね、面白い。


「カントク、名字さんって……」

「何も言わないで日向君。普段はこんな感じじゃないのよ……」

「つまりリコさえ関わらなきゃ普通なのか」

「まるで景虎さんみたいだ……」

「実際仲良いわよあの二人」


気持ち多めに新しく揚げたとんかつとキャベツを持って戻ってきたら、二年生のテーブルから妙に温い目線を投げられた。なに見てんの、リコ以外はこっち見んな。



(原作の合宿編にお邪魔するお嬢様主でした。タイトルの方は私が難しい漢字使いたがりなだけなので読めなくても全然大丈夫ですよ! 私も最初見た時読めませんでした! このお嬢様主は食戟主と同一人物ですがリコちゃんに出会ったことで人間不信は脱却しています。ちなみにメイドさんとの「スズキさん」「スズコです」のかけ合いは私が鉄板ネタにしたくて仕方なかっただけ。緑間くんとの会話までは行けませんでしたが、どうしてもという場合はまたリクエストしていただければ喜んで書こうと思います。長々とすいません)
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