金城とほのぼの



部活が終わって女子トイレで着替えてきたら部室に挨拶しに行って帰る。それがいつものことなんだけど、二年に上がってからそれは少しだけ変わった。


「おつかれ金城」

「ああ、巻島もな」


三本ローラーから下りて水分補給をしていたらしい金城。それも一年から変わらないことのはずなのに、少しだけ変に思えた。というのも、今までは寒咲さんが部員の居残りに付き合って夜遅くまで待ってることが当たり前だったからだ。寒咲さんが卒業して、部室に金城一人が居残ってるこの状況がなかなか慣れない。

だって金城も私もあんまり喋る方じゃない。世間一般基準の寒咲さんが間にいて成り立っていたような空間が、二人になると途端に静まり返って感じる。部誌の隅っこに名前と帰宅時間を書いて今日はコンビニに寄らないでさっさと帰ろうと思っていると、聴き慣れた低音ボイスが私を呼んだ。


「巻島」

「うん?」


相変わらず急に呼ばれるとドキッとするいい声だな。そんな感想を心の中で呟いていたのに、次にはもっとドキッとさせられるなんてものすごい反則だと思う。


「駅まで一緒に帰らないか?」

「はい?」


一緒に帰る? なんで? もうちょい自主練すんじゃないの?


「少し外で待ってもらうことになるが、大丈夫だろうか。急いで着替えるが」

「あっ、ああ、分かった」


穏やかな笑みを向けられて断れず、結局私は逃げるように荷物を引っ掴んで部室を出た。本当になんで一緒に帰るんだろ。金城と一緒に帰るのなんて初めてのことだし、というかこんなお誘い自体今までなかったのに。悶々と考えていたら時間はあっという間に過ぎて、急いで着替えたらしい黒縁メガネの金城がカバンを背負って出てきた。


「行こうか」

「お、おう」


そういえばコイツはイケメンだった。

忘れてた。見慣れ過ぎて忘れてた。そうだよ、こんな正統派坊主でメガネなのにインテリっぽい印象が強いのはそういう顔してるってことだ。毎日会いすぎて感覚が麻痺してるってことなのかな。

正門坂から練習よりもずっとゆっくりとしたペダリングで学校を出る。春先で温かくなってきたとはいえ夜はまだ寒い。ポツポツと最近の調子やらクラスでのことや新しく入ってきた後輩のこととかを話しながら暗い道を走る。その間にすっかり金城との距離は縮まって、さっきまでの変な緊張はどっかに行っていた。

緩い坂から平坦に入り、麓の駅まで着く。ここから二人とも帰り道が違うから分かれるんだけど、ちょっとだけ寄り道してコンビニで夜食を買うことになった。


「なんか金城とデートしてるみたいだな」


はふはふ肉まんにかぶりついて、口の中が肉汁で幸せになったところで冗談を一つ。そうは言ったものの、金城を意識していたらこんな遠慮なく大口を開けないよな。


「はは、デートか。巻島みたいな女子ならオレは大歓迎だがな」

「あたしもだわ。金城と一緒だとなんか気楽」

「ああ、オレも肩肘張らなくて楽だな」

「金城でも女子に緊張したりすんの?」

「巻島はオレをなんだと思っているんだ」


悪い、悟り系男子だと勝手に認識してた。


「今日はお前を誘って良かった」

「あ、そうだよ、今までなかったのになんでいきなり」

「なんだか遠慮されてる気がしてな」


あ。

気を抜いていたから、簡単に図星だって顔を晒してしまった。肉まんを持っていた手に力が入る。溢れ出した具を気にする余裕もなく、鈍い動きで金城の方に顔を向ける。

金城はそれをやっぱりなって顔をしてた。そんで薄く笑って私を諭す。一年の時も落ち着いた印象だったけど、二年に上がってからはなんか別格で、一段と私の知っている金城に近づいてきている。


「自覚があるのかは分からないが、田所以外の他の部員には一線を引いているだろう? 同じチームメイトとして、オレにも頼ってほしいからな」


ああ、こうやって総北ができていくんだろうな。その中に私もちゃんと組み込まれているんだろうな。


「…………ショ」


簡潔に、短く答えようと出てきたのは例の口癖で、「しょ?」と首を傾げる金城が一気に幼くなって一人で笑ってしまった。



(とうとうやらかしましたタイトル詐欺。ほのぼのというリクエストを見事に逸脱してしまいました。すいませんでした。なんだかいい雰囲気にしてしまいましたがこの二人は付き合いません。不器用な妹を見守る兄的な感じでいつまでも仲の良いお友達です)
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