元一般人とクラスメイト
(
これの設定)
「名前ちゃんは崇のことが好きなのー?」
クリスマスの時でさえ見たことのない大きさのホールケーキを、まるまる一個。ものの数分で完食した美少年がにっこり笑う。つるつるほっぺに生クリームを付けたあざとショタが投げかけた質問に、持ってるティーカップを揺らす程度の動揺で抑えられたのは働いていた記憶のおかげだ。昔の商談用ポーカーフェイスは歪んでいないし、視線もピクリともロリショタフェイスから外れていない。だからたぶん大丈夫。大丈夫、よね?
私が母特製のお弁当を持って華やかな食堂にやって来た理由は特にない。強いて挙げるなら気分転換にぼっち飯しようと思ったからだ。適当に空いている席に座ってそれなりのマナーで食べ終えたところで、相席を申し出てきたのが同じクラスの二人組。埴之塚光邦くんと銛之塚崇くんだった。そう、埴之塚くんは銛之塚くんの目の前でその際どい質問を投げかけたのだ。
もちろん、私は銛之塚くんに恋愛感情なんてものは持ったことない。硬派でカッコイイという評判は確かに好感が持てるものだけれど、実際に接点もないのだから恋愛に発展するまでもない。加えてホスト部なんて得体の知れない部活に入ってる時点でその好感もマイナスに振り切る。正直近寄らないでおこうと思ってたくらいだ。だから埴之塚くんの質問は的外れもいいところだけれど……そうだとしても、本人が居る前でその質問は意地悪が過ぎるのではないかなあ、と。ごにょごにょ。
「もしかして、そのお話をするために相席をしたのでしょうか」
「うん! だってきょーちゃんの告白をことわ、」
「ん"ん"ん"!」
「だいじょーぶー? 紅茶飲んだら?」
なるほど悪魔か。理解した。誰が聞いているとも知れない食堂で、鳳くんの名前を出してその話をするなんて正気じゃない。もしかして、告白を断った腹いせをしに来たとか? この美少年がわざわざ? ゾッとしない冗談だ。一口紅茶を含んで喉を潤し、気を引き締めて体勢を立て直す。
「申し訳ないけれど、銛之塚くんにはクラスメイト以上の感情を抱いたことはありませんの」
「だよねー」
だよねー、とは。
「名前ちゃんが好きになりそうなのは崇かなーって」
「はい?」
「きょーちゃんを振った理由。僕なりに考えてみたけど、やっぱり恋愛にキョーミないだけなんだね!」
「ん"ん"ん"ん"ん"!!」
助けて猫澤くん助けて!!!!
日当たり抜群の食堂にいるわけもない友人の姿を探したい。そんな衝動に駆られる。
埴之塚くんはその可愛らしい見た目からたくさんの注目を集めていた。一年当初の思春期だか反抗期だかでキャラが迷走してた時期を経て、最終的に今のようなロリショタ全開の美少年キャラに落ち着くまで。クラスの皆さんがハラハラ見守っていたのを覚えている。その頃は思い悩んで一喜一憂する美少年をなんとなく微笑ましいものだなあと遠目に眺めていたのに、今の彼はその限りではない。ホスト部という部活に本格参戦したあたりから、初々しさが一切なくなったばかりか、妙に達観したような目をするようになった。
たまに、本当にたまーに。『君の事なんて何でもお見通しだよ』って雰囲気を出すんだ。
「名前ちゃんいい子だから、安心してきょーちゃんを任せられると思ったのになぁ〜」
ちょうど、今みたいな。
「…………」
…………怖っ。
いつの間にか注文していた新しいケーキが目の前に置かれる。胸焼けのしそうな量に嬉々として手を付けだした埴之塚くんと、我関せずと黙って見守る銛之塚くん。向かい合って座っているだけなのに落ち着かない気持ちにさせられる。もちろん埴之塚くんが言うところの恋なんてものじゃない。
もう、このコンビとこれ以上同じ空間にはいられない。いつ弱みを握られて鳳くんの元に強制連行されるか分かったもんじゃない。こうなったら逃げよう。お嬢様の立ち居振る舞いが完全に崩れる前に、だ。敵前逃亡というより、もともと勝負になるような相手じゃなかったんだ。誰かに責められるいわれはない。だから逃げる。よし。
「……お二人ともごめんなさい。次の授業の予習をしたいので、これで失礼しますね」
「お勉強するの? 名前ちゃんは偉いねぇ。じゃあ、お話の続きはまた今度にしよっか」
「はい、ではまた」
またって、社交辞令ですよね? そうですよね?
ケーキまみれの埴之塚くんと結局最後まで喋らなかった銛之塚くんから足早に距離を取った。逃げるが勝ち。逃げるが勝ち!
「名前ちゃんときょーちゃんって似てるよねぇ。どっちもクールでつーんってしてるけど、意外と感情豊かでお顔にすぐ出ちゃうの」
「似た者同士、だな」
「うん! だからお似合いだと思うんだけどなぁ」
そんな恐ろしい囁きを聞かなかったことを考えると、その時私が逃げたことは、正解だったのだろうか。
企画へのご参加ありがとうございます! ssのホスト部かドリフということで、ホスト部の方を書かせていただきました。ハニモリコンビと同級生なことを生かしたかったのですが、圧迫面接みたいな内容になってしまいました。二人ともいじめてるつもりはゼロです。無邪気なハニー先輩が書けてとても楽しかったです。素敵なリクエストありがとうございました!
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