嵐の夜に


黄昏時だというのに、突然の激しい暴風雨に襲われて辺りは暗闇に包まれた。
森の中、枝葉の隙間から滝のように打ちつけてくる雨に、目も開けていられない。ぬかるんだ腐葉土を踏みしめ、かたらは振り返る。もちろん視界が悪いので何も見えず、仲間の気配すら感じ取ることもできなかった。

「……っ…」

攘夷戦争の最中、撤退命令が下され皆は四方八方に散らばった。
勝ち戦だと油断した途端、敵が最後の切り札(巨大兵器)を出してきたのだ。それはもう無我夢中に逃げるしかない。情けないが、攘夷軍にはそれに対抗し得る手段がなかった。
幸い、こんな暴風雨に見舞われては敵も深追いできない。しかし不運といえば、こんな暴風雨に見舞われては味方のいる撤退場所に辿り着く気がしない、ということだろうか。

そんなこんなで今に至るわけで…つまるところ、かたらは迷子になっていた。闇雲に動いたせいで、森の奥地に入ってしまった…のかもしれない。
ピシャッ!っと頭上が光り、間髪入れずに雷鳴がとどろく。

「!……ん、…あれは……」

一瞬の光に照らされた先に何か建物らしきものが見えた。



少しだけ切り開かれたその場所に建っていたのは丸太小屋だった。
どうやら木樵(きこり)が道具置場兼休憩所として使用しているものらしい。とりあえず、中に誰もいなかったので、かたらは一時避難場所として小屋を借りることに決めた。
真っ暗で何も見えないが、時々光る雷光を頼りに部屋の中を把握していく。すると、奥の長細い台座の上に毛布が折りたたまれているのを見つけた。簡易寝台のようだ。

かたらは胸のさらし布と下着以外を脱ぎ、防具と忍装束の水気を切って天井の物干し竿に吊るした。それから、自分の体には大きすぎる毛布に包まって暖を取る。
嵐が過ぎ去るまではここに居たほうが安全だろう。どの道、仲間は撤退場所で一夜を明かすのだから焦る必要もない。明け方になったら、太陽で方角を確認しながら野営地へ向かえばいいのだ。

「…銀兄、きっと心配してるだろうなぁ……」

思わず口に出て、かたらは苦笑する。けれど、考えてみれば銀時だってこんな嵐では迷子になっているかもしれない。もしそうだとしても銀兄なら大丈夫!と、妙な確信があったりもする。
かたらは寝台の隅に寄りかかり、目を閉じた。激しい雨音でも、戦の疲れが眠りへと誘っていく…





ガタンッ…入り口の扉が閉まる音に、かたらはハッと目を覚ました。
ギシッ、ギシッ…何者かがこの空間に侵入してきた様子…この小屋の所有者か、あるいは自分と同じく道に迷った者か、それとも敵の天人か…かたらは武器を手に身構えた。
咄嗟に気配を消したのに、相手は殺気を感じ取って瞬時に刀を抜く。それだけで、かなりの手練れと窺える。

「………先客か」

と、相手が言った。その声には聞き覚えがあった…


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