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異世界ハニー

Step.5 船

「針の者に襲われたのか、それは気の毒だったな」
 砂を麻袋に詰める作業をしながら、男は言った。ここではサボテンのことを針の者と呼ぶようである。
「また針の者? とかいうのが来る前に、その船に乗せてもらえませんか」
「構わないが、この砂を運ぶのを手伝ってくれないか」
「この砂って何に使うんですか?」
「火の国に運んでガラスにするのさ」
 男はせっせと砂が入った袋を船に運んでいく。あずきもそれに倣い、そこらの砂を麻袋に詰め込んでいった。
「ところで、その蛇の魔物も乗せるのかい?」
 男の言葉に、ぴしり、と青筋を立てた「蛇の魔物」が、真っ赤な目を吊り上げて睨みつける。
「神に向かって魔物とはいい度胸じゃないのよあんた!」
 ボロ布を着た男はきょとんとしたあと、大きな笑い声を上げた。
「馬鹿を言っちゃいけない! 蛇の神なんて聞いたこともないよ! 神を騙るなんて、正に魔物のすることだ」
「かっちーんときたんですけど? ねえ? この男丸呑みにしていい?」
「駄目駄目駄目駄目! ほら、あれだよ、私たちの世界とは神様のあり方が違うんだろうよ、たぶん! ね、落ち着いて」
 直立した部分が約二メートル、地面に接して這う尻尾が役四メートルの銀秘命(しろがねひめのみこと)が丸呑みだなんて言うと、迫力が違う。
 せっかくの逃走手段を逃すまいと必死で銀秘命を押さえつけるあずきは、ぼろぼろの桟橋に繋がれている小舟を見て、それから銀秘命を見た。
「ヒメさん乗れるサイズじゃないね」
 明らかにキャパシティオーバーである。転覆は免れないであろう。
「何よ、泳げっていうの? 可愛いあたしに?」
「いや、可愛くはないけど」
「だから可愛いって言いなさいよお世辞でもいいから」
「お世辞でもいいの?」
「嫌よ!」
「複雑な乙女心だな!」
 砂を運びながらぎゃあぎゃあ騒ぐあずきと、何もせずに文句は並べる銀秘命。男はそんな一人と一柱を呆然と眺めながら、なら、と口を開くのだった。
「大きな船で迎えに来てやろうか? 蛇の魔物と友達なんだろう?」
「だから誰が蛇の魔も」
「お願いします! やったー!」
「遮るんじゃないわよ!」

 男の小舟を見送って三時間ほど経った頃、本当に大きめの船がやってきた。
「乗せてもいいが、雑用はこなしてくれよ」
 ガタイのいい船乗りに言われ、あずきは大きく頷く。銀秘命は不機嫌そうに船へ乗り込んだので、おそらく手伝う気はないのだろう。
 船乗りに言われるがまま、あずきは走り回った。銀秘命は船を走り回る鼠を摘まんでは丸呑みにしていた。帆を張る仕事を教わるあずき。鼠を捕って食す銀秘命。甲板をブラシで洗うあずき。鼠を捕って食す銀秘命。
「ちょっと、この船、鼠多くない?」
「ヒメさん手伝ってくれなさすぎじゃない?」
「おお、鼠がいなくなってる! 船で増えて困っていたんだ、ありがとう、蛇の魔物よ!」
「私よりヒメさんの方が感謝されてるし、不公平!」
「魔物って言うのやめなさいよいい加減」
 船に乗ること一時間半。小さな陸地が見えてきた。
 船乗りによると、火の精霊の力を借りて製錬や加工をする技術に長けた国であり、赤い旗がはためく、活気のある土地らしい。
「精霊……」
「火の国には火の精霊、土の国には土の精霊がいる。当たり前だけどな」
「神様は?」
「うーん、神話かおとぎ話でしか聞いたことはないな」
 神は遠い存在らしい。ヒメさんが神を自称して笑われるはずである。
 船が港に着くと、あずきは再び雑用へと駆り出された。