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異世界ハニー

Step.25 いざ、出港

 大精霊から荷車を借り受け、あずきと銀秘命(しろがねひめのみこと)は、火の精霊がぎっしりと詰まった大きな木箱を二つ、運ぶこととなった。荷車に載せる作業は青いイノシシが手伝ってくれ、さらに荷車を牽引することもイノシシ頼り。あずきは不思議そうに青いイノシシを見つめ、口を開く。
「私たち、イノシシくんに何もしてないのに、なんでこんなに親切にしてくれるんだろう?」
 青いイノシシはあずきをちらりと見やると、ふん、と鼻息を吹き出し、荷車の前に座り込む。縄で荷車を体に括りつけろと言っているようだった。
 馬車などでは本来、ハーネスのように体を固定する器具が必要であるが、あずきは鞍で代用することにした。おとなしく荷車を括りつけられるイノシシ。
「ふむ! なるほど! 昔より! 深く青き者は! 恩義を感じると! 忠義でもって返すと! 聞いたことがある!」
 まったく、ふむ、なるほど、どころではない声量で火の大精霊が話し出すのに耳を塞ぎながら、あずきは恩義や忠義の意味を量りかねていた。
 深く青き者……青いイノシシは何に恩を感じているのだろう。
「ねえ、もしかして……」
 銀秘命がちょいちょいとあずきの服をつまんで、深く青き者を指差す。
「あのイノシシ、あんたが山賊の寝床から連れて帰ったんでしょ?」
「え? うん」
「あのまま繋がれてたら、いつかは山賊に食べられてたところを、あんたが脱出させて助けたって認識してるんじゃないの?」
「……そんな都合のいい解釈ある?」
 思わずイノシシを見上げるあずき。そんなあずきに対して、青いイノシシは誇らしげに鼻を鳴らしていた。どうやら気のせいというわけではないらしい。
 シュラーゲンとトリットという山賊の兄弟から、ニクミ・ソイタメと名付けられたイノシシである。命の危機を感じていたに違いない。
「いや、別に恩を感じる必要なかったんだよ?」
「ブフム」
「ねえ、不満そうにしてるわよ、このイノシシ」
「ええ……だって大したことしてないじゃん、別に」
 鞍にまたがり手綱を握るあずきに、青いイノシシは立ち上がり、そしてゆっくりと歩き出す。手を大きく振って見送ってくれる火の大精霊に手を振り返し、あずきは銀秘命と青いイノシシと共に、北の港町へと向かうのだった。

「うん、渡航券を確認したよ。それで、どうするんだい?」
 隣の国まで人や荷物を運ぶ大きな船に乗り込もうと、船乗りに声をかけたところ、なんとも要領を得ない問いかけをされてしまった。どうするも何も、船に乗りたいのだが。
「客として船に乗る場合は一人百ヒノクニ、荷物として船に乗る場合は一つ十ヒノクニ必要だけど、このイノシシは非常食かい? 非常食なら、十ヒノクニで乗せられるよ」
 あずきは首都の酒場で言われたことを思い出していた。
 客としてならば百ヒノクニ、荷物として、雑用をこなしながら乗るのならば十ヒノクニが、運賃として必要であると。
 あずきはイノシシを見て、複雑そうな表情を浮かべた。
 今まであずきに尽力してくれたイノシシである。それを山賊たちと同じように非常食扱いするだなんて、このお人好しにできようか。
「えっと……仲間です」
「仲間?」
「そう、仲間! よく働いてくれて、助けてもくれた! いい子なんですよ、非常食なんかじゃないんです」
「へえ。なら、百ヒノクニ払って、客室に泊まらせるかい? イノシシを」
 あずきが持っているのは三百ヒノクニで、銀秘命、イノシシを客室に乗せた場合、残りは百ヒノクニである。そこから火の精霊が入った木箱二つと、荷車一つ分の運賃である三十ヒノクニを引くと、残りは七十ヒノクニ。
 どう考えても、あずきが客室に泊まることは叶わなそうだ。
「……よし、じゃあ、それで。ヒメさんとイノシシくんの寝る場所があるなら、充分でしょ、うん」
 下働きをすることを了承して船に乗り込んだあずきの背中に、銀秘命が、馬鹿じゃないの、と小さく呟いた。呆れたような目をしていた。